『白いぼうし』(国語4年上)を通して読みとる助詞の「に・で・を」

助詞
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 文章を正確に読み取るために文法知識は必須です。例えば「宙舞う」「宙舞う」「宙舞う」。この3つの「場所」に関わる助詞「に・で・を」は、文にどのような意味の違いをもたらしているのでしょうか? ここでは、国語小4上(光村図書)の単元『白い帽子』(あまんきみこ作)に出てくる文を通して、場所に関わる助詞「に・で・を」の意味を考えてみたいと思います。

場所に関わる助詞「に・で・を」の意味

 場所に関わる格助詞にはいくつかの種類(に、で、を、より、から、まで等)がありますが、きこえない子に難しいのは、一文字の格助詞「に、で、を」でしょう。これらの助詞には以下のような使い方があります(上図参照)。

場所に関わる助詞「に」

①その場所が行先・到達点をあらわす(行先・目的地の「に」)【例】「お風呂入る

②その場所が存在する所をあらわす(存在の「に」)【例】「お風呂ある

場所に関わる助詞「で」

その場所で行為・動作をすること(場所の「で」)【例】「お風呂あそぶ

場所に関わる助詞「を」

①その場所を離れる・出発点をあらわす(出発点の「を」)【例】「風呂出る」 

②その場所を通過するとき(通過の「を」)【例】「お風呂通る」(*上図の例では省略)

「宙に舞う」「宙で舞う」「宙を舞う」の意味はどうちがう?

 このような助詞の違いから「宙舞う」「宙舞う」「宙舞う」が、それぞれどのようないめーじになるのかを考えると以下のようになります。

①「宙舞う」⇒宙が「行先・目的地」なので、図の上のようなイメージになります。

②「宙舞う」⇒「宙」は舞う「場所」なので一定時間持続してそこ(宙)で舞い続けるという意味になります。

③「宙舞う」⇒「宙」を比較的短時間の間に通過して行ったということになります。*対象の「を」と考えると「で」に近い動きと考えることも可能です。  

 こうした違いがわかって初めて、教科書に出てくる文の意味を正しく理解し、その情景がイメージできることになります。では、教科書の中の文はどのような情景になるでしょうか。光村図書や学校図書の4年上の国語に出てくる『白いぼうし』(あまんきみこ作)から取り出して考えてみます。

「白い帽子」に出てくる、場所の「に・で・を」を考える

 教科書の中の次の文はどのような情景になるでしょうか。光村図書や学校図書の4年上の国語に出てくる『白いぼうし』(あまんきみこ作)から取り出してみました。(  )の中にはどのような助詞が入るでしょうか? 

①・・・「これは、レモンですか」。堀端(  )乗せたお客の紳士が、話しかけました。

  作品の冒頭の部分です。堀端は「場所」で、その場所でタクシーに乗せるという行為が行われていますから「堀端乗せたお客の紳士」です。

②・・・信号が青に変わると、たくさんの車が一斉に走り出しました。その大通り(  )曲がって、細い裏通り(  )入った所(  )、紳士は降りていきました。

  タクシーに乗って移動中、大通りに差し掛かり、タクシーは曲がって行きますから、「その大通り 曲がって」。通過の「を」が使われています。 場所の「で」でも間違いとは言えませんが、「で」の場合は、そこで一定時間なにかをしているというイメージが強くなります。ここはタクシーで移動している場面ですから、通過の「を」のほうが場面に合っていると思います。
 次の「細い裏通り(  )入った所(  )紳士は降りていきました。」はどうでしょう?  ここは、「細い裏通り入った所、紳士は降りて」となっています。前者は、通過点として考えれば「を」もあり得ると思いますが、ここはタクシーの行先・目的地ですから行先の「に」が使われています。また、そのあとの「入ったところ」はその場での行為ですから、場所の「で」が使われています。

③・・・もんしろちょうです。あわてて帽子をふり回しました。そんな松井さんの目の前( )ちょうはひらひら高く舞い上がると、並木の緑の向こう( )見えなくなってしまいました。

 前者は「目の前()ちょうは・・舞い上がる」もあり得ますが、ここでは「目の前()・・まい上がる」で、通過の「を」が使われています。「目の前で」であれば松井さんの目の前でしばらく舞っていたことになりますが、通過の「を」なので、比較的短時間でその場(=目の前)を通り過ぎたことになります。蝶は常にひらひらと舞い、移動しているのです。そして、「並木の緑の向こう()見えなくなってしまい」ます。ここは行先の「に」です。

④・・・そこは、小さな団地の小さな野原でした。白いちょうが、二十も三十も、いえ、もっとたくさん飛んでいました。クローバーが青々と広がり、綿毛と黄色の花の交ざったたんぽぽが、点々の模様になって咲いています。その上(  )踊るように飛んでいるちょうをぼんやりと見ているうち、松井さんには、こんな声がきこえてきました。「よかったね。」「よかったよ。」「よかったね。」「よかったよ。」それは、シャボン玉のはじけるような、小さな小さな声でした。

 ここで使われているのは「その上踊るように飛んでいるちょう」で、通過の「を」です。その上で、・・飛んでいるちょう」でもよいのかなとも思いますが、ひらひらと舞い、移動している蝶なので、やはりこの場面も野原の上を移動しているという統一された蝶のイメージで描かれているのだろうと思います。

助詞の意味・用法を身につけることの大切さ

 助詞は使い方で大きく意味を変えてしまう場合もあれば、ここでの使い方のように、微妙に意味が変わる場合もあります。とくに文学作品の中では、微妙な使いわけがなされています。そこまで深く読み取ることは、きこえない子にはかなりハードな作業です。
 しかし、助詞の使い方を意識的に取り上げ指導することで、その意味の違いを理解させることは可能です。 まず、基本的な助詞の意味・用法をきちんと学習することが先決ですが、きこえる子に準拠した国語の教科書ではそのような指導はいちいち行われませんし、扱う時間も設定されてはいません。日本語の基本的な語彙・文法は自然獲得しているということが前提になっているからです。ですから、きこえない子には、まず、助詞などの用法を意図的に取り上げ、しっかりと身につけさせる指導が必要だと思います。

参考になる記事・書籍

☆YouTube日本語講座・第25回 場所の「に・で・を」を使って文を作ろう!https://nanchosien.blog/particle-place/#particlenidewo

★『聞こえない子のための新・日本語チャレンジ』難聴児支援教材研究会 A4版 184頁 1,600円https://nanchosien.blog/challenge/#challenge

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