助詞の指導(4)~助詞「に・で・を」の指導方法

日本語文法指導
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 前回までに助詞「が」、「が」と「を」の指導法について説明しました。ここからは「手話」と関連付けた指導法になります。ということは、手話を使わない聴覚口話法の立場からは想像できない指導法ということになります。聴覚口話法は自然法なアプローチを基礎としていますから、助詞も、きこえる子が生活の中で何度も使って自然獲得していくのと同じように、日常会話の中で使うことを中心に、生活の中での会話を通して自然に獲得させようということになります。

 しかし、日本語は英語と違い、開放文法の言語といって文脈が共有されていれば単語だけのやりとりでも会話が成り立つ言語ですから、助詞をあえて使わなくてもそれ以外の非言語情報(実物、身振り、表情など)があれば十分に通じあえる言語です。そのため会話の中で助詞の獲得をするためには、キューとか指文字文字などの視覚的手段で補いつつ会話をしないと、音声だけでは、よほど主語・助詞・動詞の活用など含めた、省略のないきちんとした丁寧な文(精密コード)でのやりとりをしないかぎりなかなか身に付きません(「もう食べたの?」「食べたよ~」といった省略の多い文では助詞の習得は難しい)。 

 このような事情もあって、「助詞は永遠の課題」とか「助詞は『言語獲得の臨界期』を越えたら身に付かない」などと言われたりしていますが、そうではなくて、単に指導の方法が見いだせなかっただけのことです。逆転の発想になりますが、手話を日常的に使っている子どもにとっては、日本語の助詞の獲得は、助詞の意味用法と結び付けて指導すれば、助詞は比較的簡単に理解し使えるようになります。以下、助詞手話記号というオリジナルな記号を使って指導する方法を紹介します。

助詞手話記号について

 助詞手話記号というのは、上図のような記号です。日本語の助詞「に・で・を・と」の意味・用法を手話の手型を使って表したものです。

助詞「に」の指導

  助詞「に」には、図のような4つの意味・用法があります。上から一つ目と二つ目は、場所に関わる助詞「に」で、これには行先(目的地)をあらわす「に」(例「学校に 行く・着く」)と、存在をあらわす「に」(例「教室に ある・いる」があります。三つ目は、時間や数量をあらわす「に」(例「3時に 終わる・行く」)、四つ目は、対象の「に」です。

 こうした意味・用法の違いを述部(文末)の動詞と関連させて指導します。例えば、動詞の「行く、来る、帰る、向かう、着く、乗る、入る」など空間の移動が伴う動詞には、「行先・目的地」の「に」が必要です。では、では、「8時に 学校に 行く」という文では、どうなるのでしょう? 基本の形は「(私は)学校に 行く」(第Ⅲ文型)なので、行先の「に」が必要ですが、詳しく言うために「8時に」という時間をあらわす「に」がもう一つ加わっていることになります。

助詞「で」の指導

 助詞「で」には、図のような4つの使い方があります。一つ目は、場所の「で」で、どこかの場所で行動・動作などをする時の「で」です(例「食堂で 食べる・話す」。図では「現地」と表していますが「場所の『で』」とも言っています。二つ目は、時間・数量の「で」で、「期限・範囲」を表す「で」です。時間・数量に関係しているので時数詞のあとにきます(例「3人で あそぶ・行く」)。 三つ目は道具・材料・手段・方法の「で」です(例「はさみで 切る」)。そして四つ目は、原因・理由の「で」です(例「風邪で 休む」)。

助詞「を」の指導

 助詞「を」には、3つの使い方があります。一つ目と二つ目は、場所に関わる「を」で、出発点・起点の「を」(「トンネルを 出る」)と、通過の「を」があります(「トンネルを 通る」)。三つ目は、対象の「を」です(例「トンネルを 見る・ふさぐ」」。場所に関わる二つの「を」以外は全てこの対象の「を」です。これらの三つの使い方を例文や動詞と共に指導します。

場所の「に・で・を」の指導

 助詞「に・で・を」をひと通り指導したら、次は、図のように場所に関わる「に・で・を」を指導します。図では、「教室」という特定の場所を設定して、それぞれ「に・で・を」を使って文を作っていますが、「教室」を「お風呂」「トイレ」「電車」「ファミレス」など様々な場所に見立てて、劇化・動作化すると楽しく学習できます。

参考になる記事

 ☆YouTube日本語講座第19回 自動詞なのに、なぜ助詞「を」を使うの? https://nanchosien.blog/intransitive-verb-2/#particlewo
  
 ☆YouTube日本語講座第21回 助詞「に」は、どんなときに使うの?https://nanchosien.blog/particle-ni/#particleni

 ☆YouTube日本語講座第24回 助詞「で」の四つの使い方
https://nanchosien.blog/particle-de/#particlede

 ☆YouTube日本語講座第25回 助詞「に・で・を」を使って文を作ろう!https://nanchosien.blog/particle-place/#particlenidewo

 

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