幼児に助詞を教える方法~「助詞カード」であそぼう!

あそび・教材
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はじめに~助詞はどのように指導すればよいか?

 「が」「は」「を」「に」「で」「と」「の」といった助詞はそれだけ単独に取り出しても意味を持ちません。助詞は語と語の間にあって、それらの関係をあらわす「機能語」なので、文の中でしか使えませんし、文の中でしか教えることができません
 ところが、①日常会話の中では助詞は頻繁に省略されますし(「学校 行ったよ」)、②たとえ表出されたとしても音圧も小さく、発語時間もほんの一瞬ですし(「学校 、行ったよ」、③「を」と「と」と「の」、「が」と「は」、「で」と「へ」などは、後続母音が同じなどのことがあるので、きこえない子には、音声だけの日常会話の中では助詞はなかなか身に付きません。助詞が身につかなくても日常会話の中では非言語情報(実物、文脈、表情、身振りなど)がたくさんあり、また、わからなかったことは相手がきいてくれるので会話は成り立ちます。
 こうした理由から、きこえない子とくに聴力の厳しい子たちは助詞が苦手です。といって指導の方法が特段これといってない・・・。子どもの助詞の誤りを、「学校『を』行きました、ではなくて、学校『に』行きました、だよね」と教師は正しい使い方を示す、これをひたすら繰り返す。しかし、子どもは、なぜ「を」ではなく「に」なのか理由がわからないのでまた同じ間違いを繰り返す。
 そこで開発した方法が、手話を使って助詞の意味を教える方法(「助詞手話記号」)でした(上図)。また、同時に開発した「動詞・形容詞活用表による指導」と共に用いることで、日本語習得に大きな成果を挙げてきました。
 その成果については、下のグラフによって検証できます。一つ目のグラフは、ある聾学校小学部児童のうち、助詞の系統的指導を行ったグループと、とくに指導をしなかったグループの半年の間をおいて行った助詞テストの結果です。助詞の理解度において差がなかったグループですが、意図的に指導をしたグループと指導をしなかったグループの間には平均点で15点ほどの差が生じています。
もう一つのグラフは、Jcoss=「日本語理解テスト」の項目別通過率(*)の推移です。2007年から4年おきに、2019年までみていますが、2007年より向上していることがわかります。例えば助詞「~が~を・・」の理解度をみる『7.置換可能文』は、2007年は通過率20%以下でしたが、その後は通過率60~70%に向上しています。(*項目別通過率=ある文法項目について10人が10人ともその文法項目を通過(=4問全問正解)していれば通過率は100%、5人通過なら50%)
 これらのことから、助詞や動詞の活用を中心とした継続的・系統的な日本語文法指導によって子どもの日本語を理解する力は確実に向上させることができること、教科書を自分で読んで理解するだけの基本的な文法力をつけることができることがわかりました(*その方法については、本HP の『YouTube日本語講座』及び『日本語文法指導』を参照)。しかし、こうした「要素法・構成法」的な指導が可能になるのは、物事を一般的・客観的にみる力(「メタ認知の力」)がついてくる小学校以降です。生活言語である日常会話が中心の幼児期にはなじまない方法です。では、幼児期での助詞の指導はどうすればよいでしょうか? 

幼児期の助詞の指導法は?

  幼児期の助詞の指導は、やはり日常会話や絵日記といった子どもの生活に密着した文の中での指導が中心になります。といって最初に述べたように、音声言語での文は継時的に「おと」が連なっているだけですし、しばしば助詞は省略されたりもしますから、「見えない」のが特徴です。「見えない」のであれば「見える」ようにする、それがまず大事です。聾学校での文の指導では、助詞を明確にするため助詞を丸で囲む方法がよくとられます。しかし、会話の中では助詞に〇をつけることはできません。 
 口話法の中では、手話はもちろん指文字も使わないのが基本ですから、指文字で助詞を明示することはありません。音と口形だけで助詞を判断するわけですから難しい。だから助詞が身につかないのは当たり前の話です。では、どうすればよいか? 答えは明らかです。文の中で助詞に〇をつけたのと同じように、会話の中では助詞を明示するために、指文字を使ったり、文字カードを使えばよいわけです。これまでの経験では、指文字で助詞を明示するより、文字カードのほうが子どもにとってインパクトが強く、助詞を意識化できる点でメリットがあります。そこでここでは助詞カードの作り方と使い方を紹介します。

助詞カードをつくろう!

 そこでまず、助詞を視覚化した助詞カードを作ります。助詞の「見える化」です。これを使って遊ぶだけで、ある程度日本語の単語が身についている子には、助詞の使い方を教えることができます。
 まず、印刷された助詞の記号を切り取り、割りばし付きとそうでないものと二種類作ります(上図)。厚紙であればラミネートはしなくてもOKですが、長持ちさせるにはパウチしたほうがよいでしょう。大きさは5~6cm四方。10cmの大き目のを作ってもいいでしょう。
 *下記より助詞カードの印刷用原版(PDF)がダウンロードできます。
   *助詞カード(PDF)

助詞カードの使い方

絵本の中でつかってみよう!

 まず、絵本を読み聞かせをするときにこのカードを使ってみましょう。助詞を意識させるのに最も適した絵本は、かがくいひろしの『だるまさんが・の・と』の3部作。この絵本の中の『だるまさんが』をひらき、助詞カード「が」を使いながら読み聞かせてみましょう。
 絵本の各頁の文、例えば「だるまさんが・・」と読みながら、だるまさんの絵に助詞カード「」をあてます。頁をめくるとおならをしている絵です。「ぷっ」と言って、だるまさんの絵にカードをあてて、「だるまさん ぷっ」「あっ、だるまさん おならしちゃった。くさいくさい」などと言って楽しみます。このように助詞カードを絵にあて「が」を強調しつつ読み進めます。
 また、『誰かしら』『きんぎょがにげた』なども「が」を強調しながら読み聞かせが出来ます。こうした絵本の中で、助詞「が」は、動作・行為の主体(=動作主・主語)であることを示します
 『大きなかぶ』など繰り返しのあるものもよいでしょう。とくに『大きなかぶ』は登場人物が複数で、「が」と「を」を逆にすると、引っ張る人と引っ張られる人との関係が逆になるので「が」と「を」の使い方が楽しく学べます。

いろいろなものに助詞カードを当てて遊んでみよう!

次は助詞カードを使って、いろいろなもの(具体物)にあてて文を言ってみましょう。例えば、今、ポストに「が」があたっています。どんな文を作りますか? この写真なら「ポスト赤い」「ポストある」「ポスト立っている」など作れるでしょう。
 実際に身の回りのもの、自分のからだなどにあてながらいろいろと「が」を使った文を作って遊びます。自分のおなかにあてて「おなか痛い」とか、「おなかすいた」などやってみましょう。

助詞カードから助詞手話記号へ

 助詞カード「が」の次は、助詞カード「を」を使って遊びます。では、助詞「を」はどのような時に使えばよいでしょうか? いちばん頻度多く使う「を」は、何かの動作や行動をするときです。例えば「〇〇が 〇〇を ~する」といった使い方です。日本語では、主語の「〇〇が」を省略して「〇〇を ~する」の部分だけを取り出して使うことができますので、実物やものに「を」を当てて、「鉛筆 持つ」「机 たたく」「靴 はく」「水 飲む」などやってみましょう。 
 以下、同様に助詞「に」「で」「と」など順にやります。しかし、どの助詞を使えばよいのかわからないときが出てきます。そのときに、助詞手話記号を使って教えます。例えば「学校(  行く」「お風呂(  入る」などの場合はどの助詞を使うのでしょうか? 「どこか行く所があって、そこに行くときは『~ 行く」と使うよ」と、行先(「場所」の手話)を作り、そこに向かって人さし指を動かして、その「場所」まで動かします。いくつか例文を作って動作をしながらやってみましょう。「家 帰る」「部屋 来る」「バス 乗る」など。これらの動詞は移動の意味が含まれているので、いずれも「行先(目的地)の『に』」と共に使います。
 助詞「に」「で」「を」「と」は、使い方が複数あるので、それらを一覧表にして整理したものが冒頭の図の「助詞手話記号」です。一度では理解しきれないので、この表をどこかに貼っておき(あるいはパウチしておき)、いつでも見れば思い出せるようにしておきます。こうして少しずつ助詞の使い方を学んでいきます。以下は、助詞手話記号を使ってみた幼児の事例から。

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