「じどう車くらべ」小1国語~なぜ、「~ています」が多用されるか?

国語教科書
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 小1国語教科書の説明文での動詞の使い方をみると、最初に使われる動詞のかたちとして、基本形の「~ます」も使われますが、「~ています」という、表現が多いことに気づかされます。
 例えば、小1国語下「じどう車くらべ」(光村図書)をみると、最初の2頁に使われている6つの文の文末には、「~ています」が4か所、「~てあります」と~「あります」がそれぞれ1か所使われています。どのような意図があるのでしょうか? 

  では、上記の単元の冒頭の文を以下のようにしてみるとどう印象が変わるでしょうか?
「いろいろな じどう車が、 どうろを はしります。 それぞれのじどう車は、どんなしごとを しますか?   そのために、どんなつくりに なりますか?」

 自動車についてただ漠然と一般的なことを言っているだけで、挿絵に描かれている自動車のことを言っているのかどうか、どうもよくわからない文になってしまいます。

動詞には「アスペクト」がある

 日本語では、動詞の過去は「タ形(~ました)」で表します。一方、未来や現在はどのように表すのでしょう? 例えば「犬がいる」「本がある」「遠くが見える」「音が聞こえる」といった状態を表す「状態動詞」は、行為の全体でも部分でも変わりはないのでそのまま「ル形(~ます)」で現在を表すことができます。また、未来も表すことができます(「見える・聞こえる」は「見えている。聞こえている」も現在形)。

 その一方で、「ごはんを食べる」「太郎が歩く」「車が走る」といった物や人の動きを表す「動作動詞は、その動作・行為の全体を表すと同時に、未来をも表しています
 例えば「ごはんを 食べます」という文では、ご飯を食べるという行為全体を表す場合もありますし、これからごはんを食べるという未来を表す場合もあります。

 では、過去の表し方はどうでしょうか? 「ごはんを 食べました」ですね。また、これはその行為が完了したすなわち今食べ終わったというときにも使います。
 では、動作動詞の「現在」を表すかたちはどんなかたちでしょうか? 今ちょうど食べている最中が現在ですから「ごはんを 食べています」が現在になります。現在というのは、「」であり、まさに、ある動きが「進行し継続している」状態です。そこで、「車が走る」を例に考えてみましょう。添付ファイルのように、「車が走る」という一連の動きを時間の経過とともにとらえると、以下の文のようななります(これを動詞のアスペクトと言います)

  「車が走る」(未来)⇒  「車が 走っています(現在)⇒  「車が走りました」(完了)

  こうした一連の動き・動作の流れに位置付けて国語教科書の文をもう一度みてみると、なぜ、「~ています」という現在形が使われているかがよくわかります。旧版の教科書の挿絵をよくみると、道路に架かった歩道橋のようなところから(最新の教科書の挿絵では交差点をビルの上から)、カメラを据えて道路の車の動きを観察しているような印象を受けます。小1の児童は、認知発達的にもまだ自分の視点から物事を考えることが多く、自分以外の他者の視点からものごとを考えることは苦手ですから、このような、まるで自分が「今」まさに歩道橋やビルから道路の車の流れを見ているかのような、いわば視点を固定して定点カメラで見ている感じがわかりやすいのです。

「~ています」から「~てくる」「~ていく」へ

 このように、小1国語教科書の説明文では、まず「ル形(~ます)」と「~ている」が出現しますが、その次に「~ていく」「~てくる」といった移動や時間経過を伴った表現が登場します
 光村図書の教科書では、「どうぶつの赤ちゃん」がそれです。この単元では、例えば、「よそへいくときは、おかあさんに 口にくわえて ①はこんでもらうのです。」という文、「どのようにして、②大きくなっていくのでしょう。」という文があります。前者①は空間的な移動ですが、後者②の「大きくなっていく」は、時間的な推移が含まれた表現で、現在から未来(「~ていく」)に向けた視点での言い方です(過去から現在に向けた視点が「~てくる」)。「どのようにして、大きくなるのでしょう。」という言い方よりも「大きくなっていくのでしょう。」のほうが、時間が徐々に流れていく感じがします。

きこえない子に「~ている」「~ていく・~てくる」をどう教えるか?

きこえない子も、日常生活の中で音声言語を使って「~ている」や「~ていく」「~てくる」を使う場面は当然ありますが、具体的な生活場面で自分で使えていることと、自分の経験とは関係なく書かれた教科書の文章の中で理解できることとは同じではありません。ですから、生活経験の中で使えている語や文法の力を普遍的な力にするためにも、教科書の中でその使い方を改めてとりあげたり、文法的にとりあげた問題などをするなかで、確かなものにしていくことが必要です。
 また、聴力が厳しく「走る。走らない。走った」などの活用はわかるけれど、「走っている」という現在形・進行形をどのようなときに使うか、「茎が伸びてくる」「茎が伸びていく」など時間経過をどのように表現するか、まだ十分わかっていない子どもたちもいます。ですから、このようなアスペクトの視点から取り上げることができる単元の中で、動作化や視覚化をしたり、上図のような絵を手掛かりにした問題を解くことを通して考えさせていく必要があるわけです。

参考になる記事・書籍

☆動詞の指導(2)~動詞活用の指導方法
https://nanchosien.blog/verb-conjugation-teaching-method/#verb-conjugation

☆『絵でわかる動詞の学習』 難聴児支援教材研究会 A4版 86頁 1,700円https://nanchosien.blog/verb/#verb-picture

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