「日本語、苦手」という幼児への助詞指導法

視覚教材
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 「音声言語が身についていない難聴幼児に助詞の習得は無理」と、医師やSTの方がおっしゃるのを耳にすることがあります。音声で会話ができるというhearingやspeech(いわゆる話しことば)のレベルとlanguage(言語とくに内言語・書きことば)のレベルとは質の違うことで、視覚的な認知の力さえあれば、言語(書記日本語・内言語)を身につけることは可能です(WISCⅣの「知覚推理」合成得点90↑が一つの目安)。
 例えば、聴力がスケールアウト(130dB 以上)で補聴器装用(一応つけている)の聾学校生徒が国立大学を一般受験で合格していますし、また、同様にスケールアウトでインテ時代は「音声対応指文字」(文字対応指文字とは違い、ほぼ会話の速度で使えます)で聴児と会話していた人も、今、聾学校教員として活躍しています。
 きこえる人が圧倒的多数の世の中ですから「聞く話す」ことの便利さは確かにありますが、音声でやりとりできなくとも、「読み書き」の力さえあれば今は家にいても仕事ができる時代になり、さらに音声変換ツール等の情報機器類の進歩や情報保障も当たり前になってきているので、しっかりと日本語の読み書きや抽象的な思考ができる力が身につけば生きていける世の中になってきています(つまり聴者と難聴者を隔てる「障壁=バリア」はだんだん低くなってきている)。
 そんなことを踏まえて、今回は、手話は身につけているが、日本語がめちゃくちゃ苦手という年長幼児に、視覚教材を使って助詞の指導をする方法について紹介したいと思います。 

幼児の実態

 今回紹介する幼児(年長)はいずれも聾学校(複数)に在籍しています。共通する特徴としては、①日本語の単語は一応習得してはいるけれど(単語レベルでの手話との変換が可能)語彙数は少ない。とくに動詞は日常動作語の基本形を数十知っている程度。②日本語の動詞の活用は「食べる」「飲む」などの基本形なら多少わかるがそれ以外の活用はわからない。③助詞の使い方は全くわからない。④WISC検査のいわゆる動作性である「知覚推理」は平均以上(90以上)である反面、言語性である「言語理解」は80以下です。さらに、手話の力は日常的なやりとりができるレベル(例『質問応答関係検査』の「日常的質問」で、「今日は誰と来たの?」「あなたは男の子?女の子?」「あなたの歳はいくつ?」等のやりとりができる)です。このような3名の幼児に、日本語の文の中で頻度多く使われる文型である「~が~を+動詞」「~を~が+動詞」という文を使って助詞「が、を」の指導を行いました。

Jcoss通過項目数絵画語彙検査 WISCⅣ              備考
A児1項目(単語段階・年少レベル)3歳以下言語理解75、知覚推理90日本語語彙数少ない。語彙の拡充が課題。語の手話・日本語の変換は部分的に可能。Jcossは手話で8項目通過。じゃんけんのルールはだいたいわかっているが確実ではない。
B児3項目(単語段階・年少レベル)3歳0か月言語理解80、知覚推理110日本語の語彙数少ない。語彙の拡充が課題。Jcossは手話で7項目通過。じゃんけんのルールOK.
C児4項目(語連鎖段階・年中レベル)3歳0か月言語理解80、知覚推理115日本語の語彙数少ない。語彙の拡充が課題。Jcossha手話で10項目通過。じゃんけんのルールOK.

指導の目標:「~が~を~する」という文型を使って、助詞「が、を」の使い方に気づく。

 日本語には5つの基本となる文型がありますが(図参照)、この5つの文型の中でとくに大切なのは、第1文型~第3文型までの3つの文型で、これらが最も頻度多く使われる文型です。今回は、時間の関係で第1文型の指導をとばして、第2文型の指導に取り組んでみました。指導時間は約30分。どこまで助詞の理解につながるか未知数でしたが、①非可逆文から指導し、②可逆文に進むことで、主語(動作主)に助詞「が」がつき、目的語(対象)に助詞「を」がつくというルールは「なんとなくわかった」という感じです。あとは、実際にこのようなカードを準備して別の場面でも指導を繰り返すこと、ワークなどを使って問題をこなすことが必要と思います。
 

*日本語の5つの文型については下記をご覧下さい。
https://nanchosien.blog/five-sentence-of-japanes#five-sentencee/

準備するもの

 ①文に使用する単語を書いたカード(この場で新たに日本語を覚えるという負荷かかからないよう単語のカードには全て手話の絵入りとした)
  *上記単語のカードは、以下の3種類
  ☆名詞カード(「男の子」「ケーキ」など)・・黄色の長方形。
  ☆動詞カード(「食べる」など)・・先がとがった横長のベース型。
  ☆助詞カード「が」・・主語を指し示す方がとがったベース型。「を」・・「を」を〇で囲んだ形。

 
 ②絵カード・・問題文を表した絵
  ☆非可逆文の絵(例「男の子が ケーキを 食べる」)・・「が」「を」を逆にした場合、「ケーキが 男の子を 食べる」となり、意味的にあり得ない文になる。このようなタイプの文を「非可逆文」と言います。
  ☆可逆文の絵(例「男の子が 犬を 追いかける」)・・「が」「を」を逆にした場合、「犬が 男の子を 追いかける」となり、意味的に成り立ち、追いかける方が犬になり、追いかけられる方が男の子になります。このような意味的にあり得て、立場が逆になる文を「可逆文」と言います。
*「男の子がケーキを食べる」の指導で使用している絵カードは過去に販売されていたもの。現在は入手できないようです。

指導の順序

非可逆文の指導(15分)

 まず、「非可逆文」から指導します(上図参照)
①絵と絵に必要な単語カード(名詞、動詞、助詞)を準備し、単語の意味を手話で確認しておきます。

②次に、絵をみせて「これは誰?」「何をしているの?」を問い、幼児が「/男の子/」 「/食べている/」(//は手話)と応えたら、「食べる」の絵カードを、絵の男の子の横に置きます。そして「食べている、私は誰?」と手話で尋ねて「男の子」と返ってきたら、「そうだね、食べているのは男の子だよね。誰かわかるように『が』を置くよ」と絵の横に、「男の子(←これは絵)が 食べる」と置きます。

③絵の下に、「ここに文を作るよ」と言って、「男の子が 食べる」と横一列に並べます。

④「食べているのはなに?」と尋ね、「ケーキ」と返ってきたら、ケーキの絵に助詞カード「を」置き、「食べているものが何かわかるように、ここには『を』を置くよ」と言い、下の文「男の子が 食べる」の文の下に「ケーキを」と並べます。そして、「緑のカードは、最後にもって来るのがルールなんだよ」と言って、「食べる」を下にスライドさせ、「男の子が ケーキを 食べる」ともう一度読んで作った文を確認します。

⑤次は、「では、この絵で文をつくったらどうなる?」と言って、同様に文を作ります(下図参照)

可逆文の指導(15分)

 「が」「を」の使い方がなんとなくわかったら、次は可逆文を使って文を作る練習をします。下の図はいずれも逆の動作・行動が意味的に成り立つ文です。このような絵を使って文づくりを経験する中で、「が」がくっつくほうが動作をする側(主語・動作主)で、動作を受ける側(目的語・対象)に「を」がくっつくことがだんだんとわかってきます。

その後はどんな指導を・・・

 今回は、時間にして30分ほどの指導でしたが、どの幼児についてもこのまま指導を継続すれば助詞が理解できるようになるだろうと思いました。つまり、手話という言語をもっている幼児で、手話の単語と日本語の単語とを結びつけること(翻訳)ができていれば、あとは品詞ごとに色と形とで分けた単語カードを使ってそれを並べて文法ルール(ここでは助詞「が・を」がターゲット)を習得できるという確信がもてました。
 これまでは、小学生以降にこうした分析的な方法で指導をして成果をあげてきましたが、その方法が年長さんくらいから使えることがわかりました。
 小学生になるといきなり教科書に入るのが一般的な日本の学校教育です。聾学校も同じです。日本語の単語もまだまだ知らない、まして文法なんてとてもとても・・という日本語厳しめの難聴児にとっては、かなりハードルが高いです。そして、わからないことにわからないことが積み重なり、自信を失っていく子が出てきます。今回、とりあげた3名の幼児も、視覚情報処理能力は聴児と同じくらいの力があるのに、言語情報処理が苦手という子たちですから、いきなり教科書に入っても日本語で落ちこぼれていく可能性が高いです。そうならないよう、少しでも「日本語やれるぞ!」という気持ちになれるよう、幼児期から語彙力と基礎的な文法力をつけていきたいものです。具体的には、Jcossで7項目以上通過するレベルを目標にします。因みに、今回取り組んだ助詞「が、を」の使い方がわかればJcoss7項目以上通過できます。
 今回、指導したことは、さらに個別指導や家庭での日記等に取り組む時に継続するとよいです。下の絵にあるゲームはとても楽しいゲームです。ぜひやってみて下さい。また、絵日記などの文で助詞を選択できるようにしたり、(  )にしておいて子どもに入れさせたり工夫をするとよいでしょう。

参考になる記事

☆YouTube日本語講座第17回『質問文の作り方&助詞「が・を」の使い方』https://nanchosien.blog/questionparticle/#how-to-use-ga-wo

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