自動詞・他動詞の指導~小3国語単元「まいごのかぎ」を通して(教育実践)

日本語文法指導
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 ここで紹介する日本語文法指導の実践は、令和5年度文部科学大臣賞を受賞した沖縄ろう学校小学部教員伊波興穂先生の実践です(今回は国語での実践、第2回目は社会科での実践を紹介します)。
 きこえない子どもたちは、自動詞(例「あく・しまる」)と他動詞(例「あける・しめる」)の意味の違いや使い方について、十分に理解していないことがあります。といって、国語の教科書の中にそのような文法事項をとりあげた箇所は見当たりません。きこえる子どもたちは、このような日本語の文法事項は、あえて教科書の中で教えなくともすでに自然獲得しているからですが、きこえない子どもたちはそうではありません。きこえない子どもたちに自動詞・他動詞を理解・習得させるために、まずその意味・用法の違いについて指導することが必要です。
 この実践では、まず自動詞と他動詞の違いについて学習し(いわば自・他動詞基礎編)、次に国語の単元「まいごのかぎ」の中に出てくる動詞から自動詞・他動詞を見つけ出す指導(自・他動詞応用・発展編)を行っています。このように、きこえない子どもたちの国語の指導においては、きこえない子らにとっては難解な文法事項を別に取り立てて扱うことも必要になります。以下、指導の概要について紹介します。

対象児

 ろう学校小学部3年生(3名)

国語単元名「まいごのかぎ」(光村図書)

 詩人でもあり児童絵本作家でもある斉藤倫(りん)によって書かれた作品(書き下ろし)。この単元の中で使われているペアとなる自動詞・他動詞は、「消える・消す」「帰る・帰す」「鳴る・鳴らす」「あがる・あげる」「回る・回す」「入る・入れる」などです。

児童の実態と授業の概要

 児童3名のうち2名は、助詞や動詞のテスト結果から、助詞「が」「を」の弁別や自動詞と他動詞の選択に課題がみられた。また、普段の日記から対になる自・他動詞を理解していない(知らない)様子も伺えた。また、3名とも動詞の可能形になると自動詞と他動詞を混同して読み取る傾向がみられた。
  そこで本単元の学習では、教科書の自動詞(他動詞)で書かれた一文と挿絵を照らし合わせ、誰の視点で書かれた文なのかを確認したあと、文章の視点(主格)が変わることで自動詞が他動詞に変化する(またはその逆)こと、他動詞の文には目的格を表す「を」が用いられることを理解させるとともに、セットになる格助詞と自・他動詞を正しく選択する力を身につけることをねらって指導を行った。

本時の目標(8・9/11時間目)

・様子や行動を表す自動詞や他動詞の量を増やし、語句を豊かにすることができる。(知識・技能)                                                                                                                                                                                                                                                                         

・登場人物の行動について、叙述をもとに捉えることができる。(思考・判断・表現)

授業の様子

自動詞・他動詞についての事前学習

 まず、単元の学習に入る前に難聴児支援教材研究会YouTube動画のテキスト(参考記事参照)を活用し、動詞には自動詞と他動詞があること、他動詞には助詞「を」を用いる(○○が△△を□□する)ことを確認した。(u上図)また、手話の指さしによって、自動詞と他動詞の主格(主語を押さえ、その動詞が自動詞なのか他動詞なのかを理解できるようにした(下図参照)。

本単元での自・他動詞の指導

 次に、本単元の本文から自動詞や他動詞で書かれた一文と、その文に合う挿絵を抽出し、抜き出した文中で使われている動詞は自動詞か他動詞かを考えさせた。その際、目的格「を」の有無に注目させ、その動詞が自動詞か他動詞かを考えさせた。
 同時に他動詞の文は自動詞の文へ、自動詞の文は他動詞の文へ書き換えるとどうなるかを話し合い、挿絵に合う2つの文作りを行った。(図2)

 次時の学習では、ペアとなる自動詞や他動詞の理解定着を図るため、教科書から自動詞と他動詞を見つけたり、挿絵に合う自動詞や他動詞を考えたりする活動を行った。(図3)この活動では、見つけた自/他動詞に合う手話表現と指さしを意識させるとともに、最後は文を書く活動につなげた。対象児の中には対になる動詞が何かが分からない児童もいたが、友達と話し合いながら活動することで、楽しみながらゲーム感覚で活動する様子が見られた。このペアになる自動詞と他動詞を見つける活動は、他教科の授業や普段の会話の中でも取り組み、ペアとなる自動詞と他動詞を教室内に掲示することで、会話や日記の中でも意識して活用しようとする様子が見られるようになった。

成果と課題

成果

・児童が助詞「を」に注目して自動詞なのか他動詞なのかを考える姿が見られるようになった。

・児童が自動詞と他動詞を意識して手話表現や指さしを考えるようになった。

課題

・今後は自動詞と他動詞の活用(否定形、テ形等)に繋げる。

・使いこなせる自動詞と他動詞の拡充を図るため、日常生活の中で自/他動詞を意識した言葉かけを行い、理解語彙の拡充と定着を図る。

参考記事・資料

*『YouTube日本語講座 第18回 自動詞・他動詞の使い方』
https://nanchosien.blog/intransitive-verbtransitive-verb/#intransitive-transitive-verb

*自動詞・他動詞ペアリスト

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