受動文の指導(1)~順序を踏まえて指導しよう

日本語文法指導
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受動文には二種類ある~直接受動文と間接受動文

 受動文は、日本語ではごく自然に用いられ、私たちにとってはなじみ深い表現の方法です。幼児でも兄弟げんかで弟が「兄ちゃんにぶたれた~」などと泣いていたりしますし、私たちも「雨に降られてびしょびしょだよ」などと使ったりします。また、教科書の中でも受動文は、どの出版社の教科書にも小1から出ています。しかし、受動文はけっこう面倒です。まず大きく分けると直接受動文(受身)間接受動文(受身)があります。

 直接受動文には、①能動文で「~を」をとる文(「兄が弟を叩いた」「弟が兄叩かれた)と②能動文で「~に」をとる文(例「母が私言った」⇒「私が母言われた」)とがあります。
 一方で先にも引用した「雨ふられた」という間接受動文は能動文にすると「雨がふった」で、「を」も「に」もとりません。自動詞だからです。直接受動文は英語の受身にもありますが、自動詞が受身になるのは日本語特有のもので、これが「間接受動文」で「迷惑」という意味が含まれます。教科書の中にも登場しますが、小1の教科書ではまだ出てきません。文法的な扱いが少し難しいからです。というわけで、受動文の指導は直接受動文からになりますが、その前にきこえない子の受動文の理解の実態をまずみてみたいと思います。

きこえない子は受動文をどう理解しているか?~J.coss結果より

 これは、ある聾学校の小1児童のJcoss(日本語理解テスト)の結果です。直接受動文の設問が4つあり、この4つ全部正解の時「通過」と評価しますが、1年生12名のうち受動文の問題を通過(4問正解)した子どもは2名しかしません(因みに聴児では小1で12人いればそのうち8人は通過します)。

 そして児童の誤り方の特徴をみると、①半分近くの児童が受動文を能動文(平叙文)として理解してしまっていることがわかります。文とはふつう、このJcoss問題文NO45でいえば「馬が 女の子を 追いかけています」という言い方が当たり前で、この文の表すところを「女の子」の立場から表現できる(視点を転換する)ということがまだよくわかっていないということです。 
では、子どもたちはどのようにこの文を読んでいるのでしょうか? 実はこれらの児童は、②助詞もまだよく理解できていません。また、名詞「馬」「女の子」は理解し、動詞「追いかける」の基本形もだいたい理解しているようですが、受身の言い方はわかっていません。ですから、わかる単語「馬」「女の子」「追いかける」を手掛かりにして絵から推測して読んでいます。「馬、女の子、追いかける」と順に読めば(語順方略)、子どもの頭の中に浮かんでくるのはやはり①だろうと思います。

  また、もう一つ難しいことがあります。それは、受動文(授受文、使役文もそうですが)は同じことを立場を変えて言っているという「他者の視点」がもてないと理解ができない文だということです。「誰のことを言おうとしているのか」という③関係の変化・視点の転換ができないと理解が難しいのです。これはきこえない子が、なかなか「自己中心性」(Piajet.J)から脱して他者の立場からの見方を理解できないこととも関係していると思われます(例えば難聴児は「心の理論」で他者の心の想像が難しいことなどがあげられます)。 

受動文指導の前にやっておきたいこと

 前に述べた3つのことを考慮しながら指導しなければならないのが受動文です。そこで児童には、まず、受動文の中でわかりやすい「直接受動文」で指導をしますが、その前に、①「~が~を+動詞」(例「太郎が 花子を 追いかける」)や、②「~が~に+動詞」(例「犬が 太郎に かみついた」)などの構文の中で助詞の指導をしておく必要があります。また、③動詞活用の指導の中で、受身形にも習熟しておく必要があります。さらに、④視点の転換という点では、『絵でわかる動詞の学習』の中の活用編8「~する・される」(受動文)なども役立つでしょう(下図参照)。
 このような文法事項が理解できていることを確かめて、受動文の指導に入りましょう。実際の指導については、YouTube日本語講座NO33「二つの受身文の作り方~直接受身と間接受身」(14分)などを参考にしてやってみてください。

参考になる記事・動画・テキストなど

★はじめての受動文~聾学校小2の実践(「どうぶつ園のじゅうい」より)https://nanchosien.blog/passive-sentence-coaching/#animaldoctor

★YouTube日本語講座NO33 二つの受身文の作り方~直接受身と間接受身(14分)https://nanchosien.blog/passive-form/#passivesentence

★YouTube日本語講座NO17 質問文の作り方&助詞「が・を」の使い方(19分)https://nanchosien.blog/questionparticle/#postposition

★YouTube日本語講座NO21 助詞「に」はどんな時に使うの?(20分)https://nanchosien.blog/particle-ni/#particleni

☆動詞の指導(2)動詞活用の指導方法
https://nanchosien.blog/verb-conjugation-teaching-method/#verb-conjugation

☆『絵でわかる動詞の学習』難聴児支援教材研究会 1,700円(税なし)https://nanchosien.blog/verb/#verbpicture

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