体験したこと、「ことば絵じてん」にしてみませんか?~きこえない子のための″語彙辞書″の作り方

視覚教材
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 子どものことばの概念を拡げるために「ことば絵じてん」が有効だということが、最近だんだんと理解されるようになってきました。そうすると保護者の方からもいろいろな質問が出てきます。「ことば絵じてんって市販されていますが、それではだめなんでしょうか?」いえいえ、それはそれで子どもが興味をもって見るのであれば、辞典にのっている絵をみながら、お子さんといろいろと会話し想像の世界を拡げていけるでしょう。それは絵本でも図鑑でも同じです。じゃあ、オリジナルのことば絵じてんは、なんのために作るのでしょうか? 

モノ(ことば)の概念を獲得するということは?

 ことばを育てるために大事なことは、「子どもと一緒に生活すること」です。一緒に生活するということは、いっしょに体験を積むということです。体験するということは、イコール、本物に触れることです。本物に触れることは、視覚からだけしか情報として入らない絵や写真と違って、嗅覚や味覚、触覚、聴覚といった様々な感覚からそのものの属性を情報として得ることができるということです。また、私たちの生活の中でそのモノがどのように使われ役立っているかを知ることです。このような実体験を通して子どもは、そのモノの概念を知ることができます。
 例えば、りんごがどんなものか子どもに知ってほしいと思ったら、「今日はりんご買いに行こうか。どこに売っているのかなあ」とスーパーのパンのコーナー、魚のコーナー、野菜や果物のコーナーなどを回りながら一緒にりんごを探すことから始め、見つけたりんごにもいくつかの種類があることを知ったり、みかんやバナナと比べながら色や皮、重さの違いに気づいたり、買って帰って皮をなが~くむいてみたり切り口の蜜や種を取り出したり、味や香りの特徴に気づいたりしながらりんごを食べてみることです。そのようにして子どもは自分のことばとして「りんご」とその概念を獲得していきます。その経験は、絵本の中で見て知識として知っていた「りんご」とは意味が違います。

 このような体験を日々積み重ねながら、子どもはさまざまなモノの概念を知っていくのですが、そこに手話ということばがあってその経験が言語化され、子どもの頭の中に知識として定着していきます。言語(=language)がないと物事の概念は記憶・定着しないので、早期の言語獲得=手話獲得はとても重要な意義があるのです。

一つ一つのモノ(ことば)の概念をもっていても・・・

 このような経験を積み重ねて子どもは一つ一つのモノの名前やそのモノの概念を身につけていきます。みかん、りんご、バナナ、ぶどう、もも、すいか、パイナップル・・と子どもが知っていくことば(=基礎語)も増えていくでしょう。
 そこで、3歳を過ぎたある日、子どもに質問してみます。「○○ちゃん、バナナ、りんご、みかん、ぶどう、これは、みんな何というか知っている?」聴こえる子どもで3歳を過ぎた子どもは、この質問に「くだものだよ」と応えます。「くだもの」ということば(=上位概念)が、一つのモノではなく、まとめたもの(カテゴリー)につく名前だということをちゃんと知っている。ところが同じ3歳のきこえない子たちはこの質問に応えることができない子が多いのです。なぜでしょう? きこえる子なら起こり得ないことがきこえない子には起きている。きこえる子は、例え大人が意図的に「くだもの」と教えなくても、どこかで「くだもの」という言葉を聞きかじって知っていることが多い。園で、テレビで、絵本で、親から、兄弟から、祖父母から、友達から、先生から、あるいはお店の人や知らない人から・・・。「偶発的学習」がちゃんと成立している。きこえない子は「くだもの」という、括りにつけられた見えないことばは、教えない限り知ることができない(意図的な学習が必要)。これが言葉の遅れが生じる、大きな原因の一つです。

「ことば絵じてん」を作る意味

 ゼロデシベルのきこえる子ときこえない子のこの差は本当に驚きます。補聴器や人工内耳をしても補えない聴覚情報からの差。モノが集まってカテゴリーで括られ、そのカテゴリーに名前(上位概念)がつけられ(「野菜・果物・穀物」など)、それらのカテゴリーがさらに集まってさらに上位の概念で括られる(「農産物・植物」など)。このような語彙の積み上げの上に「農業」という抽象概念が成り立っている。だから小学校5年生で「農業」の学習ができる。こうした構造化された語彙の体系を「語彙辞書(心的語彙)」(Mental lexicon)といい、その積み重ねができるかどうかは、将来的に抽象概念の獲得の差になって表れてきますから、ことば獲得の初期からことばをまとめて整理し、頭の中に記憶していくことはとても大切なことになってきます。

「ことば絵じてん」を作ってみよう!

 では、きこえない子はどうすればよいか? 絵や写真でまとめて視覚的に整理します。それが「ことば絵じてん」です。といっても実際に生活の中で絵辞典を使って、いろいろなモノ同士の関係が見てわかるようになるのはだいたい3歳頃から。この頃になったらことば絵じてんを作って、子どもの興味関心と結びつけながら、生活の中で使っていきます。

夏休みの体験を「ことば絵じてん」にしてみるのも・・

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 さて、もうすぐ夏休み。子ども達はどのような本物体験を重ねることができるでしょうか。夏ならではの体験をいろいろ思い浮かべてみてください。海に行って、ほどほどに熱い砂の上を裸足で歩かせてみてはどうでしょう。海水と混ざった砂で泥んこ遊びを楽しみましょう。波に作っては崩される山を見て、波の不思議、海、を実感することでしょう。海のしょっぱい水をなめてみるのもびっくりする経験でしょう。岩場があったらカニや貝も探してみましょう。山に行けばきれいな星をみることができます。うっとりと空を見上げてみて下さい。蝶やカブトムシ、セミ、トンボやバッタを捕まえて見せてあげるのもいいですね。虫網を持って、童心に返って追いかけてみてはどうでしょう。普段見たことのない大きな飛行機に乗って空から地上を見る体験、フェリーと青い海の上を旅する体験。子どもがワクワクするような体験をぜひしてみて下さい。
 そして、その時に、「絵日記」にまとめるのもいいですし(絵日記は子ども本人の体験そのもの=エピソードなので子どもも思い出として楽しめるよさがある)、もう一つの方法として「ことば絵じてん」としてまとめてみるのもよいでしょう(こちらはことばだけの集まりなので体験の裏付けがないと少し難しいかも?)。テーマはいろいろ。「夏」「海」「虫」「星」「雲」「飛行機」「旅行」。子どもが実際に経験したことであれば、きっと興味を持つでしょうし、そこからさらに話が広がっていくのではないでしょうか。

参考になる記事 

☆発達に沿った絵日記の描き方
https://nanchosien.blog/how-to-write-diary/#picturedialy

☆乳幼児期の「写真カード」の作り方と使い方
https://nanchosien.blog/photo-card/#photocard

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