幼児の日本語習得~視覚教材を使って伸びた家庭指導事例

ことば絵じてん
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 これから紹介する実践は、年中・CI装用児Aちゃんの保護者が、①「ことば絵じてん」づくりによる語彙の拡充の取り組みと、②助詞、受動文・能動文、比較表現、自動詞・他動詞などの日本語文法に取り組んだ記録です。今回は年中の秋から数か月の間に取り組まれたことから抜粋して紹介します。
 
 これまで、上記①の「ことば絵じてん」づくりは、乳幼児相談の段階から積極的に保護者に勧め、語の概念形成や語彙拡充において一定の成果をあげてきています。但しこの活動は、うまく子どもの興味を引き出すことが最大のポイントで、子どもが興味を持つよう工夫が必要です。(*1)
(*1)「体験したこと、『ことば絵じてん』にしてみませんか?」の中の「とも君の『ことば絵じてん~2歳半頃』」の事例を参照。https://nanchosien.blog/word-picture-book/#dictionary-case
 
②の文法・構文等について。これは「助詞手話記号」や「品詞カード」を使った日本語の文法学習として基本的には小学生以上の児童に、ろう学校や難聴学級の「自立活動」の授業の中で取り組んできており、これも効果が実証されています。(*2)
(*2)「将来の夢はろう学校の先生」~重度難聴のS子との3年半の記録(難聴学級)https://nanchosien.blog/practice-deaf-class/#educational-practice1

「初めての受動文~聾学校小2の実践(『どうぶつ園のじゅうい』)より」https://nanchosien.blog/passive-sentence-coaching/#passive-sentence1

 しかし、まだ幼児に適用した実践は行ってきませんでした。今回、年中の難聴児をもつ親御さんが、上記のような視覚教材を使って子どもと日本語の文法学習に取り組み、その結果、語彙の概念カテゴリーや文法の理解が進み、病院でおこなったJcoss(日本語理解テスト)視覚版による検査で、20項目中14項目通過したということでした(自分で問題文を読んで回答する方法で、14項目通過は聴児の小2レベル)。
 もし、幼児期にこの記号を使って文法の理解ができるのであれば、きこえない子どもとくに高度・重度難聴児の幼児期での日本語習得は、視覚を通して飛躍的に進む可能性があります。そこで、この、家庭で保護者が取り組んだ事例を紹介し、難聴幼児の日本語の支援・指導に取り組んでおられる先生方や保護者の方々に参考にしていただけたらと思います。以下、保護者による実践の記録を紹介します。

ことば絵じてんづくりに取り組む(年中・10月上旬から)

取り組んだきっかけ

 わが子は、新生児スクリーニングで重度難聴がわかり、その後、手話を使い始め、1歳4か月で初めての手話「おいしい」が出ました。2歳0か月で人工内耳(CI)を片耳にして、年中の今は、声と手話と指文字でコミュニケーションをとっています。
 言葉が上手になると、つい「聞こえている」と思ってしまい、安心してしまいました。先日、このホームページの『ことば絵じてん』づくりのところを見てことばのカテゴリーのことを知り、子どもに『上位概念』を質問してみると、果物と野菜の名前はたくさん知っているのに、分類もできていないし言葉で説明もできない。単語を知っているから、特に説明はしたことはないけれど、自然に分かっているものと思い込んでいたことに気がつきました。子どもの頭の中では、単語があちこちに散らかってるんだなと思いました。
 そこで、ことば絵じてんで頭の中に引き出しを作り、整理しようと考えました。変化は早く、すぐに上位概念を理解して、みるみる頭の中に引き出しができていくのを感じました。誰かに何かを説明するときには、ことば絵じてんのページを頭の中で見ながら話していることが、一緒に作った私にはわかりました。ものにはカテゴリーがあること、色々な見方ができることを教えられたと思います。
 一番最近作ったのは『秋』に関するページです(上図)。体験した事、食べ物、服装など秋にまつわることを集めました。作っていると、ワクワクしてきます。親が楽しいと、こどもも楽しんでいて、どんどんページが増えていきます。こどもも、自分だけの辞典が大好きになって、分からない時は自作の辞典を持ってくるようになりました。 

ことば絵じてんの効果

 ことば絵じてんの効果は、予想以上でした。こどもと一緒に私も学んでいて、大変なこともあるけれど、素敵な時間を過ごせています。そして、今は、子どもと二人で『冬』のページを制作中です。冬に使うもの、クリスマスの料理、虫や動物の冬眠などを作っています。夏のページと比較して違いを学んだりしています。また、おせちや十二支のお話しを聞かせて順番を覚えました(上図)。

その後のことば絵じてんづくり~モノの集まりからことばの集まりへ

 以前、数え方について先生に質問して、それも絵辞典にまとめると良いとのアドバイスをいただき、さっそくやってみたところすぐに覚えて、今では「本を2冊かりてくる」「魚は一匹、二匹」と、あっさり暗記しました。まとめることって、こんなに効果があるんだ、と毎回驚きます。絵辞典を作れば作るだけ、知識に直結していく感じがします。いまは、物の名前の絵辞典作りより、言葉集めの絵辞典作りになってきました。
 これからも、絵辞典を活用して、親子で一緒に楽しみたいと思います。どこから手をつければいいのか、やり方も分からない。学校も教えてくれない。でも、助詞を教えたい。上位概念を育てたい。途方もない作業に感じていましたが、絵辞典、手話助詞記号、品詞分類、助詞カードと、教えて頂いた方法を一つずつ試していくと、「できるかもしれない」と希望が持てました。
 また、春になったので、ことば絵じてんから発展させて、春に関する絵本も一緒に作りました。

ことば絵じてんから『ことばのネットワークづくり』へ(年中・3学期)

 次に取り組んだことは、『ことばのネットワーク作り』(難聴児支援教材研究会編)です。これはCD(別売)の分も含めて全て終わりました。「仲間はずれはどれ?」と「似ているところと違うところ」が難しかったようでしたが、繰り返して日常でも質問していくと、答えられるようになってきました。」

 ☆絵画語彙検査の結果
【1回目】 5歳1カ月時 語彙年齢 3歳2か月(遅れている)
  *ここから『ことば絵じてん』作りを始めた。

【2回目】 5歳8か月時 語彙年齢 5歳6か月(平均)
  *7か月間であっという間に語彙が増えた。頭の中にことばをまとめて括っていくことの大切さが
  実感できた。

語彙の学習から文法の学習へ(年中・春休み)

助詞カードの作成

 教えていただいた助詞カードを作ってみました。実際の生活場面で助詞がカードになって登場するので、こどもが驚き面白がっています。こどもが遊んでいるぬいぐるみやミニカーなどに、助詞カードをさっとつけて「Sが、コアラに渡す」「コアラがSに渡す」と文章で言っています。視覚化できて、インパクトもあって、助詞を意識すると思います。これで助詞の理解が進みそうです! でも、今はまだまだ助詞の理解が進んでいないので、現段階ではJcoss7項目め(置換可能文)は通過できないと思います。ですが、今後、助詞の勉強を家でしていけば、いけるかもしれない!と思うことができました。 ヘルメットととんかちで叩くゲームも、さっそくやってみました。が、単語の意味はわかるけれど、やはり助詞の意味がわからないので、ゲームになりませんでした。(3月末)

助詞手話記号をポスターに

「助詞の指導をスタートして、CDの中にあった手話助詞記号をポスターにして貼っているんですが、助詞手話記号、ものすごい効果を感じています。これを参考に教えたら一気に理解が進んだ感じがあります。家にポスターも貼って、自分なりに説明もしてみました。すると、子どもが「Sが、トイレに行く、の『に』はこれ」とポスターの場所を表す「に」をしめしました。「お部屋で遊ぶ、の『で』はこれ」と、場所の「で」の手話助詞を出したりしています。やりだしてまだ1ケ月未満ですが、思ったより子どもは吸収が早いようで、もう取り入れ始めているようです。(4月半ば)

助詞クイズ

 短文を作って、「ポスターの手話助詞記号のどれに当てはまると思う?」と質問すると100%正解でした。手話記号になっているので、目で見て使い方や意味がわかるから、するする入るようです。それを見て主人が「ぼくも、はやく表を覚えないとついていけなくなる」と焦っていました。大人よりも、こどもの方が覚えがいいですね。はてしなく遠く思えた助詞理解の目標ですが、この調子ですと夏ごろには理解できそうです。反復してしっかりと自分のものにしていきたいです。(4月末)

 

絵日記を品詞分類してみた

 それから、絵日記も難聴児支援教材研究会のHPにのっているやり方にかえてみました。(*3)
初めて絵日記の効果があらわれてきたのを感じます。(今になり、文法を勉強中です・・・・・頑張ります) 日本語を使うのは自然すぎて、第二言語として学ぶ時に、そもそもどこが難しいかが分かりません。HPをみて、「これが難しいのかぁ」と驚くような感覚でした。日本語は自然すぎて、品詞分類、動詞の活用と、学問的になると逆に考え出して難しいです。(年長1学期)
(*3)https://nanchosien.blog/how-to-write-a-diay/#picture-diary1

助詞学習に取り組んだ順序と効果(まとめ)

①助詞に関しては、最初に助詞記号のカードをつくり実物にあてはめた。(年中春休み頃)

助詞ポスターの意味を説明した。すぐ理解して即アウトプットできた。(年長始め)

たたくゲームで実際にたたく側、たたかれる側の時、どういう文章かやりながら確認した。(まだよくわかっていなかった)

④助詞ごとの助詞クイズをした。(年長5月頃)

⑤すべての助詞をまぜて助詞クイズをした。

追いかけっこをした。「追いかける」「追いかけれる」の札をさげて、やる前に助詞カードを体にあてて「Aがお母さんを追いかける」と文章にしてから行動した。能動文7割ぐらい理解の段階で受動文を教え始めた。「お母さんがAに追いかけられる」と言ってからやった。(上図参照・年長初夏)

⑦簡単な文章をつくった。「このカードを使って」と、渡してみた。(文章作りはまだまだ)

⑧絵日記はすべて品詞分類をした(上図)。初期は助詞手話記号を助詞の横に貼っていた。

⑨ほぼ理解してから「日本語チャレンジ」(*4)をやった。レディネステストでは78~90点ほどとれた。(年長1学期~夏休み)
(*4)『きこえない子のための新・日本語チャレンジ』難聴児支援教材研究会発行https://nanchosien.blog/challenge/#challenge

病院でジェイコス(日本語理解テスト)を受けてみた。14項目通過した(小2レベル)
(年長夏休み終り頃)

コメント

 以上が、保護者の記録をまとめたものです。まだ続きがあるのですが、長くなるので今回はここまでにします。視覚教材のメリットは、なんといっても「見てわかる」ことです。難聴児は「目の人」と言われるように「見えるもの」は本当に強いですが、「見えないことはないのと同じ」と言われるくらい頭に入れることが難しい。それを”可視化”して「ことばが見える!」ようにしたものが視覚教材です。ぜひ、学校や家庭で工夫しながら使ってみてはどうでしょうか? 

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