第33回 二つの受身文の作り方~直接受身と間接受身(14分)

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  受身文は、生活の中でもごく自然に用いられ、私たちにとってはなじみ深い表現の方法です。例えば、兄に叩かれた弟が、泣きながら「にいちゃんに ぶたれた~!」と言ったりします。この文は、主語は「ぼく」で、会話の中では省略されています。もし、これを能動文にすれば「にいちゃんが ぼくを ぶった!」で、「にいちゃん」が主語になり、にいちゃんの行為をやや客観的な位置から言っていることになります。しかし受身を使うと「ぼく」が主語になり、「叩かれたのはこの僕だよ。泣いている自分に関心を向けて!」という意味が出てきます。これが受身文の大きな特徴です。

受動文について

受動文は教科書の中でどのように使われているか?

 では、教科書の中ではどのように用いられているでしょうか。上左図は、教育出版(1年上)「だれが、たべたのでしょう」の一節です。上左図の右頁では、「まつぼっくり」に着目してほしいという意図から、「(まつぼっくりの中には)まわりがかじられたものもあります」と、「まつぼっくり」を主語にした受身文(主語は省略されていますが)を使っています。しかし、左頁では、「まつぼっくり」から一転して視点を「りす」に向けてほしいために、「りす」を主語にした能動文が使われています。

 また、上右図は光村図書の3年下「すがたを変える大豆」の一部です。ここでは、大豆に焦点をあてるために、一貫して「大豆」を主語にして受身文で表現されています。「大豆のことを注目してね!」という意図が感じられる文章です。

動作をする人(動作主)を主語にしたい

 一般的にどのような言語でも、動作をする人を主語にすることが多いですが、文の主人公が動作を受けている場合、動作を受けている主人公を優先して受動文を使うことがあります。能動文にすると日本語としては不自然であったり、筆者のいちばん言いたいこととずれてしまうことが起こるわけです。このような場合、日本語では行為・動作の対象となる語を主格(主語にもってきて、主格(主語)について言いたいという受動文をつくることが多いです。引用した教科書の例からもそれがわかります。

きこえない子は、受動文をどのように理解しているか?

 このように、受動文は教科書の中ではかなり早い段階で出現しますが、その意味や使い方は日本語の使い方に習熟していないと難しい構文です。そのため、受動文で書かれている文がきこえない子に正確に理解されているかというとかなり難しいです。 

 上の資料は、Jcoss(日本語理解テスト)という検査での各検査項目の通過率です。「通過」というのは、各検査項目にある4問全部正解した時その項目を「通過した」と評価します。また、児童10人のうち10人全員が、ある項目通過であればその項目の通過率は100%、一人しかいなければ通過率10%です)。グラフから受動文についてみてみると、聾学校低学年の通過率が17%、高学年が28%であることがわかります。つまり、半分以上の児童が受動文が「わからない」ということです。では、なぜ、受動文は難しいのでしょうか?

なぜ、受動文は難しいのか?

 J.cossの結果を分析すると、受動文の難しさに、以下の3つの点があることがわかります。

視点の転換が難しい(関係性の理解)・・・能動文と受動文の関係は、同じ行為・動作について立場を変えて言っているだけなのですが、この立場の転換ということが難しいことです。これは認知的な発達とも関係していて、まだ「自分中心」の思考から抜け出せず、「他者の視点」になかなか立てないことです。一般に「自己中心性」から脱却する時期は、7~8歳と言われていますが、難聴児は、この段階に到達するのが聴児に比較して遅くなる傾向がみられます。

助詞が習得ができていないため、助詞の変換が出難しい。

動詞の活用が習得できていないため、受身形を知らない。

①については、文法指導だけで解決できませんが、②③は文法指導の中で行う必要があります。
以下、今回は受身文の二つのパターン、直接受身文と間接受身文について学習します。

今回の学習内容

まず、直接受身文の学習から

 受身文には二つのタイプがありますが、低学年では、わかりやすい「直接受身文」を学習しますが、もちろん、その前に、「~が~を+動詞」(基本文型Ⅱ)や、「~が~に+動詞」(基本文型」Ⅲ)を学習し、理解しておく必要があります。
 また、動詞の活用表を用いた1~3グループ動詞の活用についても学習しておく必要があります。そのうえで受動文の指導となりますが、受身文の動詞は、動作を受ける側に立った表現の仕方ですから、それに慣れるためには『絵でわかる動詞の学習」の中にある「受動文(受身文)」のワークを使うとよいと思います。

間接受身文は中・高学年で

 もう一つの受身文は、間接受身文です。ここではわかりやすくするために「めいわく受身文」という言い方をしています。この受身文は「めいわく」の意味がこもっていることが多いからです。

ア.「雨が 降った」(能動文)⇔「(私は) 雨に 降られた」(受動文)

イ.「(電車の中で)子どもが 泣いた」(能動文)→「(電車の中で)(私は) 子どもに 泣かれた」(受動文)

上の2つの能動文には、迷惑を受けている「私」は表現されていませんが、受動文にすると「(迷惑を受けている)私」という主語が出てきます。これを「隠れた主語」と言っています。

使用テキスト・問題

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