前回、「ものに名前があることがわかる」ことが本来の言語獲得だと書きました。そしてそれは、「同じ」という観点で世界を切り分け(分類・カテゴリー化)、そのくくられたまとまり(=カテゴリー)に対して名前をつけるということを意味していました(例:「いぬ」はどんな犬種であろうと全て「いぬ」です)。このしくみに気づいた子どもは、周りのいろいろなモノに関心を持ち名前を知りたがるようになります。これが「語彙の爆発」と言われる現象で、1歳半~2歳頃、子どもが50~100語程度の語を獲得したころに始まると言われています。
では、なぜこのような急激な語彙の獲得が可能になるのでしょうか? それは、未知のもの(図の例では「オカピ―」)に遭遇したとき、子どもの頭の中では、すでに知っているもの(例:犬、猫、キリン、シマウマなど)を手掛かりにしてそれらと、未知のもの(オカピ―)とのあいだに類似性を見出し(その類似点・相違点は見た瞬間に判断しています)、そこから新しいものが、自分の知っているいくつかのものを手掛かりにしてどのようなものであるかを推論し(「あれ、キリンみたい。しまうまにも似ている。でもわからない。なんていう動物かな?」)、新しいモノがどんなものであるかを知ろうとします。そして「あれはオカピ―と言うよ。しまうまに似ているけどほんとはキリンのなかまだよ」と教えられて、新しい知識として獲得します。
このような語を獲得するしくみのことを「即時マッピング」と言いますが、新しく出会うものに対してこの語彙獲得システムが作動していくと、蓄積される情報量も増えていくのでさらに新しく出会ったものに対しての判断も早くなっていきます。こうして語彙の獲得スピードが速まり、結果として「語彙の爆発」が起きると考えられています。
きこえない子の「語彙爆発期」
では、きこえない子の場合、このような言語獲得システムは有効に機能するのでしょうか?これまでの経験からは、きこえない子の音声言語では、獲得語彙数が50~100語程度まで増えてくる2歳以降が多いですが(補聴器や人工内耳をしても音韻の弁別ができるまでに時間がかかる)、手話では1歳代でこの現象がみられます(図参照)。この図の事例S児の1歳4か月時の語彙チェック表は、ちょうど語彙爆発が始まった頃です。このことは、獲得した単語(手話)を使って発達早期から親とやりとりし、自分の思いを伝えたり(一語文期)、さまざまな体験とやりとりを通して物事の概念を身につけ、認知的な発達を促すこともできるということです。これが手話からスタートすることの大きなメリットの一つです。
語彙爆発期頃の事例から
ことばのもつカテゴリーに気づき始めた子どもは、さまざまなものを見比べながら「同じ!」とやるのが大好きです。子どもの気づきに共感しながら「おなじものさがし」をすることが、ものごとの関係を考える力を伸ばし、ことばの概念を豊かにします。
また、「語彙爆発期」に差し掛かった子どもは、自分が興味・関心を持ったものの名前が知りたくて「あれはなに?」「これは?」と盛んに質問します。そのためこの時期を「質問期」とも言います。時間のある時は丁寧に付き合い、そのものについていろいろな方向から会話しものの概念をひろげるとよいでしょう。
参考になる記事
☆「体験したこと、『ことば絵じてん』にしてみませんか?~きこえない子のための”語彙辞書”の作り方https://nanchosien.blog/word-picture-book/#wordpicturebook