0歳から育てたい!人と関わる力~インリアル・アプローチ・PART2

子どもとの関わり方
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人と関わる力を育てる

 あるろう学校の乳幼児相談では、専門家の方の講演や保護者対象の手話教室などがほぼ毎週といってよいくらい頻度多く開かれています。そうした学習会に保護者が参加している間、赤ちゃんたちの保育室は大騒ぎです。ママがいない!いやだ~とからだをのけぞらせて怒っている子、抱っこして!眠いよ~とぐずる子、おなかがすいた!ミルクちょうだい! おむつが濡れて気持ち悪い、換えて~!・・・。保育をお願いしているボランティアさんたちもてんやわんやです。

 赤ちゃんたちは、ことばで表現できないけれども、からだ全体を動かしたり、手さし・指さししたり、大声で泣いたり、自分の要求を表現しています。こうした、赤ちゃん達の様々な要求に、どう丁寧に、細やかに応えてあげるかが、0歳時期の子育てではとても大事なことです。このことは、今後、赤ちゃんが人を信頼し、人とコミュニケーションをとっていきたいと思う気持ちが育つかどうかに大きくかかわっていきます。

 もうずいぶん昔の話になりますが、私が子育てを始めた頃には、赤ちゃんが泣いても抱っこしたら抱き癖がつくから抱かない方がいいという考えが根強く残っていました。年配の方のアドバイスの中にも、泣いたら「抱いてやりなさい」「抱いたらダメだ」の意見が錯綜していて、若い親たちは悩むことも多かったです。
 抱いたらいけないという考え方は、「泣けば抱いてもらえる」ということを赤ちゃんが学習して大人が大変になる、泣いてばかりの赤ちゃんになる、という考え方ですが、しかし、そのようにして育てられた赤ちゃんは、泣いても大人が抱いてくれるわけでもなく、応答してくれないため、あきらめて、泣くことをやめるようになるのも事実です。手がかからなくなったように思えるこの赤ちゃんの姿は、赤ちゃんにとって「泣いて要求する」という唯一の要求手段を否定された経験となり、要求をあきらめる=人に関わることをあきらめるという学習をさせてしまったことになるわけですが、一昔前はそういう子育てが特段不思議とは思われない時代でした。

 抱っこに限らず、おむつを替えてほしい、おっぱいが飲みたい時にすぐに対応しないで放っておくことも、赤ちゃんの要求する意欲をそぐことになるわけですから、この時期甘やかさないように、なんて発想ではなく、どんな赤ちゃんの要求にも必ず応えることが大事だということが、今は強調されるようになりました。

 赤ちゃんは、自分が出した要求に丁寧に応えてもらう経験を通して、「あ~泣けばママは○○してくれるんだ、また泣いちゃおう」と思う、それが他者への信頼感を育てるわけですね。 赤ちゃんは泣くだけの要求から、徐々にほしいものに目を向けたり、指さししたりしながら、様々な要求や、共感を求めてきますが、それに丁寧に応じることが0歳~1歳時期の子育ての大事なかかわりなわけです。こうした、ことば以前のコミュニケーションを丁寧に育むことで、赤ちゃんは人への信頼を築き、人と関わる楽しさや安心感を知り、手話や音声ということばを介してのコミュニケーションの段階に入っていきます。子どもに要求する虚しさを感じさせないように心がけていく、難聴児の子育てにおいても、今は、こういう赤ちゃん中心の子育ての考え方に変わり、確かに、そのように育てられた赤ちゃんは、情緒的にも安定していて、ものごとに積極的に挑戦していく、意欲的な子が多いように思います。

インリアル・アプローチ

ミラリング

 さて、こうして人への信頼を築き、人と関わる基本的な意欲を学んだ赤ちゃん達は、大人といっしょに遊ぶことを楽しみ始めます。個人差はありますが、10ヶ月前後になると、「ちょうだい」の身振りや声に、モノを渡してくれるというように、人と、物を介してのやり取りが楽しめるようになります。そして、楽しい遊び相手になってくれる人のまねも始まります。両手の動作が簡単なものがまねのしやすい動きです。「ばんざい」「パチパチ(両手をたたく)」「おつむてんてん(あたまを両手でたたく)」「いないいないばあ」等、大人がこのような動作をやってみせると、その内に、赤ちゃん達のまねが始まるでしょう。こうした模倣を促す遊びをたくさんしてあげてほしいと思います。 
 と同時に、今お話したのは大人から仕掛ける遊びですが、反対に、子どもに合わせて動作を大人が模倣するかかわりも積極的にしてあげるといいと思います。これは「インリアル・アプローチ」の中の「ミラリング」という方法で、鏡のように、子どもがやっている動作をそのまま模倣するというものです。
 例えば、子どもがたまたま両手を挙げてから、床にバタンと手をつく動作をしたら、ママは同じようにその動作をやって見せるのです。大概の赤ちゃんがキョトンとし、不思議そうに見つめ、ニコッと笑うことでしょう。そして、赤ちゃんはまた、同じ動作をすると思います。大人の反応を見るわけですね。その期待に応えるように、またママは同じようにまねて動作をしてあげて下さい。0歳児に限らず、1,2歳児でもいいでしょう。子どもがミニカーを左右に走らせていたら、ママも同じように左右に走らせてみる、子どもが楽しそうにジャンプしたら、大人も同じようにジャンプしてみる・・・これはすべて「ミラリング」というかかわりです。これはどうして良いかかわりなのかというと、自分の行動・動作が相手を動かしている、自分が何かをすると相手が応答してくれているということが、子ども自身が見てわかるため、人に働きかける楽しさを実感できるから良いのです。つまり、人とコミュニケーションする意欲や楽しさを経験しながら、相手の話を見たり、きいたりする力も育てていくことができるわけですね。
「あれあれ?ジャンプしたら、ママもジャンプしてるぞ、おんなじことをするなあ。」というように、相手に影響を及ぼしていることに気付かせることが大事なわけです。同じ動作を互いに繰り返す楽しさを知る内に、次に違った動作をし始め、同じようにまた大人は動くだろうか、そんなことを試す様子も見られ始めます。大人がもちろん、赤ちゃんに合わせて動作を変えて応答すると、「やはり!自分と同じように動いている!」という気づきにつながりますね。今度はこうしてみよう、ああしてみよう、目的を持って、赤ちゃん達は仕掛けてくるかもしれません。それにつきあってくれる大人の存在を確かめながら、相手との気持の共鳴が起こり、さらに働きかけたいと思う意欲がわいてくることでしょう。それが、つまり、人とかかわる力を育てていくことにつながるわけです。この時に、赤ちゃんがバンザイしてから床に手をつくという動作に合わせて、「バンザイ バンザイ」「バーン」というように、繰り返し音声言語をつけていくことで、繰り返される同じ音声情報への着目につながり、聴覚を活用するチャンスにもなります。もし、赤ちゃんの動作をまねずに声だけをかけていたら、きこえない、きこえにくい赤ちゃんは、相手を見ることもしないで、その動作を1,2回やって、おしまいということにもなりかねません。共に動作をしながらかかわってあげると、大人がうんざりするほど、何度も繰り返すこともあるはずです。その繰り返しの中で聴覚も活用できるということですね。

モニタリング

 「ミラリング」と同様に、「モニタリング」といって、声やことばを同じようにまねしてかかわることも大事なかかわりです。赤ちゃんが「あー」と言ったら、「あー」と応答してあげましょう。「バッバッ」と言ったら、同じように「バッバッ」と言ってあげましょう。そのように応答することで、補聴器を通して自分の耳に入ってくる自分の声と、相手の声が同じパターンであることに気付きながら、さらに声を出してみようかなという意欲につなげることができるのです。

 こうした、大人が子どもに合わせてまねするかかわりは、コミュニケーションの基本として大事なかかわりです。0歳時期に限らず、どうも子どもがなかなか自分を見てくれないなあ、なかなか一緒にうまく遊べないなあと思った時に、子どもの遊びに添って付き合いながら、子どもの動作や声をまねてみるという基本に立ち返るのもいいかもしれません。こうした人とのやりとりを楽しむコミュニケーションが、どのくらい豊かにできるかということは、人との関わりやことばが育つための基本的に大切なことの一つです。かわいらしい盛りの赤ちゃん達と、このような方法をヒントにして楽しく遊んでみてはどうでしょうか。
 以前に「インリアル・アプローチ」についてこのホームページで取り上げましたが、詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

★『子どもを伸ばす関わり方~インリアル・アプローチ』
https://nanchosien.blog/inreal-approach/#inreal-aproach

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