日本語の特徴の一つは、修飾語句が文の前に前に(横書きでは左へ)と展開していくことです。この点は、関係代名詞をつけて後ろへ(横書きなら右へ)展開する英語とは逆です。
例えば、以下のような文があるとします。
1.「私は 運動会に 行った。」
この文で「運動会」だけではどんな運動会なのかよくわからないので、「運動会」(名詞)を説明する語句を加えようと思った時、日本語では「運動会」の前に説明する語句を付け加えます。例えば以下のようにします。
2.私は、東京の××区にある〇〇小学校の運動会に行った。」
どこにある何という名前の小学校かはこれでわかります。でも、なぜ、その小学校に行ったのかはわかりません。そこで、さらに理由を説明する語句を入れてみます。
4.私は、きこえない友だちが通う東京の××区にある〇〇小学校の運動会に行った。
このように、特定の名詞の前にその名詞を説明する語句を付け足して、さらに長く詳しくすることが可能です。これが「名詞修飾」ですが、日本語の文に慣れていない難聴の子たちの多くは、この構文がどのような構造になっているのかわからない。そこで今回は、この「名詞修飾」を難聴児にどのように指導するか、その方法について紹介します。なお、「名詞修飾」については、聾学校小学部2年で取り組まれた実践もありますので、ぜひ合わせてお読みください。→*「3.参考になる記事」へ
きこえない子どもたちの実態
上の図はJcossという文法力を調べる検査の中の問題です。問題文「四角は 青い 星形の 中にあります」という文が4つの図のどれなのかを答える問題(「述部修飾」)ですが、ある聾学校小学部の児童20名のうち9名が、②または③と答えています。これらの児童は、「四角は 青い」(ここで一旦切る)「星形〜」と文を途中で切って理解したと考えられます。
そして、後半部分については「星形が 中にある」と考えた児童が6名、「星形の中に ある」と考えた児童が3名ということになりますから、助詞の理解にも課題がある児童が3分の2。従ってこの文は、以下の三つの点について指導することが必要ということがわかります。
①文の基本的ルールの理解(文は句点の前にある語つまり述部までが一文であること)。 |
②「名詞の修飾のしくみ」の理解(日本語の修飾のしくみ) |
③助詞の意味・用法と基本文型の理解(助詞「が(は)、に、の」) 基本文型Ⅲ(「~が~に+動詞」「Aが Bに ある・ない」) |
名詞修飾の指導法
そこでまず一つ目の「文の基本的なルールを教える」ですが、ここでは上記Jcoss「述部修飾」の中にある別の問題「犬は 茶色い 馬を 追いかけています」を使って例を示してみます。
構文図を使ってルールを教える
品詞カードを使って文の構造を教えるときに、このような構文図を使います。この構文図への「品詞カード」の並べ方にはルールがあり、事前に指導が必要ですが、長くなるのでここでは省略し、詳細は、本ホームページから「YouTube日本語講座第32回『品詞カードの並べ方ルール』」を参照してください。
問題文「犬は茶色い馬を追いかけています」を、「犬は 茶色い。」「馬をおいかけています」と「茶色い」で一度区切って解釈した子どもは、本来ひとつの文であるのに、上の一つ目の構文図のようになります(このような理解をする児童は、文のルールの課題だけでなく、助詞も理解できていない場合がほとんどなので「犬(助詞?)茶色い。馬(助詞?)追いかける」という助詞抜きの二つの文が頭にあり、後半の「馬 追いかける」は、「馬が追いかける」と理解するか、「馬を追いかける」と理解するかは子どもによって違い、助詞の指導がここで必要になります)。
日本語の構文ルールは「文は句点の前の述部(述語)までが一つの文であり、述部は最後に一つだけ」ですから、「茶色い」で区切って、述部が二つになることはありえないこと、では「茶色い」はどこにもっていくのかを考えさせます。するとこのひと続きの文においては、「馬」の前にしかもってこれないことがわかります(上の二つ目の図)。そこで「茶色い」を「馬」の前に動かします。これが、この問題文の正しい構文図です。この図を使って「茶色い」は「馬」を詳しくする修飾語(名詞修飾)であることを教えます。
構文図を使って名詞修飾を実際に作ってみる
こうした名詞修飾の構文を練習する方法を以下に紹介します。下記の図は、ある聾学校の自立活動の授業で実際に行われていた指導です。指導の手順は次の通りです。
名詞句をつくる方法
1.まず、元の文「カレーを 食べる」の「カレー」を説明する文を一緒に考えます。 授業では、「カレーは からい」という文(形容詞文)が児童から提示され、それを教師が元の文の下に書きました(上の真ん中の文)。
2.この形容詞文の述部の「からい」を「カレー」の前に移動させ、「カレー」を詳しくした句(名詞句)にします。そうすると「からいカレー」となります。
3.この名詞句(「からいカレー」)を、元の文の「カレー」と置き換えれば、名詞句を使った文が完成です。いちばん下の「からいカレーを 食べる」です。
4.これをさらに詳しくすることができます。授業では、次は、述部の「食べる」を「からいカレー」の前にもってきていました。そうすると「食べるからいカレー」となります。この文は「だれが」が省略されているので主語を付け加え、さらに過去形にして「私が食べたからいカレー」にしていました。こうして、名詞句がさらに長い修飾語句になりました。
5.これを主部にして、また述部を作ったら・・。「私が食べたからいカレーは、昨日、作ったものです。」 この文の述部をさらに前に出すと・・。このようにして理論的にはいくらでも名詞句を長く詳しくすることができます。
名詞句を二つ作って一つにする方法
次に、「ラーメンを 食べる」の文の、ラーメンを詳しくする二つ(以上)の句を同時に一つにまとめる方法も授業でやっていました。
1.「ラーメンを食べる」の文の「ラーメン」を詳しくする名詞句を複数(ここでは二つ)作ります。
ここでは、①「あついラーメン」と②「おいしいラーメン」。
2.上記①②で作った文を、元の文に戻して付け加えます。そうすると次のようになります。
「あつい おいしい ラーメンを たべる」。形容詞が二つ並ぶ場合は、前の方の形容詞を「~くて」とするのがルールなので、「あつくて おいしい ラーメンを 食べる」となります。
ここでは、「ラーメン」について二つの文を作りましたが、「ラーメンは 千円です」「ラーメンは 大好きです」「ラーメンは チャーシューが入っている」など、ラーメンについて説明した文をいくつか出し合って、それを一文にすることもできます。「チャーシューが入っている、あつくておいしい千円の大好きなラーメンを 食べる」など。このような文を楽しく作るあそびを通して名詞修飾のしくみを学習します。
参考になる記事
☆「YouTube日本語講座第32回 品詞カードの並べ方ルール」https://nanchosien.blog/%e3%82%92word-order/#parts-card
★「YouTube日本語講座第29回 『大きな名詞』にして文を長くしよう!https://nanchosien.blog/large-noun/#large-noun
☆「教科書の文を『名詞修飾』にしよう!~聾学校小学部2年国語授業からhttps://nanchosien.blog/noun-phrase/#noun-phrase