幼児期からどうやって動詞をふやす?~その1

ことば絵じてん
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はじめに

  前回、ある保護者の方から質問をいただきました。要約すれば、「①重度難聴のわが子は動詞の語彙数が少ないと思うがどうやって増やせばよいのか? また、②小学校入学頃までに動詞の語彙数はどのくらい必要なのか、さらに、③獲得語彙数はどうやって調べればよいのか?」 といった内容です。そこで前回は、上記②③について書きました。今回は、①の動詞の増やし方についてお話ししたいと思います。

日本語の中で最も重要な品詞は動詞

 日本語の文は、図で示したように、文末の語(述部)に全ての文節が係る構造になっていて、文末に来る語は、品詞別にみると動詞が圧倒的に多いです(「今年の春は暖かい」と言ったときの文末は形容詞、「私の好物はみかんです」といったときの文末は名詞ですが、多いのはやはり動詞)。ですから、動詞がわからないと自分の要求も伝えられず、相手の言いたいこともわからないといったことが生じるので、まず動詞をたくさん身につけることが大事です。

しかし、動詞は学習しづらい

 きこえない幼児にことばを教えるとき、机やいす、テレビ、冷蔵庫などそのモノに「つくえ」とか「テレビ」といった、そのモノの名前を文字カードにしてそのモノに貼りつけてモノの名前を教えるといった活動をすることがありますが、このような事物名詞と違って動詞には文字カードを貼り付けることができません。事物名詞のようにそこに「歩く」というモノがあるわけではないからです。

 さらに面倒なのは、動詞は活用して一つの動詞が多様に変化することです。同じことばが数十通りの変わり方をします(上表参照)。「食べた」も「食べました」も同じ意味を表すことばなのに、見た目の形が違うと別のことばだときこえない子は思ったりします。
 そのような厄介さがあるので、動詞はなかなか幼児期に語彙数が増えませんし、使い方も定着しにくいです。上図の成人聴覚障害の人の書いた文をみると、動詞と助詞に誤りが集中していることがわかります。そして動詞語彙そのものは間違っていないのに、前文との関係で適切な使い方になっていないこともわかります。適切に運用するためには一定の習熟が必要なのです(きこえる人は会話の中で何百回と繰り返して習熟している。これが自然獲得)。しかし、動詞と助詞が適切に使えるようになれば、文は正しく書けるようになることは上の例からも想像できます。

幼児期は、まず動詞語彙の習得、次に基本的な活用を知る

  動詞は、そのどれもが活用しますからその変化の規則を知ることも大事ですが、ともかく動詞をたくさん習得することがまず必要です。しかし、これが絶対!という方法はありません。いろいろな方法を子どもに合わせて使ってみるしかありません。今回は、まず、三つの方法について紹介します。

チェイニング法~口話併用手話に指文字を加える

 これは聴覚口話+手話(口話併用手話)での会話に、必要に応じて指文字を併用する会話の方法です。正直、面倒くさい方法なので慣れないと使いづらいです。例えば以下のようにします。

 (例)「太郎は、明日、引っ越すらしいよ」→「たろう(指文字)(指文字「ハ」を使うか親指を立てて太郎を示し親指を指さす)、明日(手話)引っ越す(*①手話をしてさらに②指文字で「ヒッコス」をかぶせるように表現・・ここがポイントなので口形+指文字で表示)、らしい(手話)(口形だけまたは指文字「ヨ」もつける)」

 *「引っ越す」という動詞を手話でやって、さらにおっかぶせるように指文字で「ヒッコス」と綴る。さらにもう一度「引っ越す」の手話をやります。「サンドイッチ法」とも言います。引っ越すの意味がわからない時は、メモ用紙に絵を描いて説明したり、ネットを検索して写真などを使って説明する。引越し業者の車など見る機会があったらその時はチャンス。「ひっこす・ひっこし」の文字も加える。あるいは絵本を読み聞かせたりして、「引越し」の概念を広げます(『ともだち』という絵本は、聾児が引っ越してくることがテーマになった絵本です)。

 こうしたチェイニングの方法を実際にやって効果をあげた事例を以下に紹介します。

 この幼児は年中までは手話オンリーでしたが、年中の頃から日本語の習得を意識し始め、まずは少しずつ手話での会話の中に指文字を取り入れていきました。指文字が増えて日本語と手話が結びついてきたら、会話の中での難しい言葉は「指文字⇒手話⇒指文字」の順に提示していきました。また、このころから「二語文暗記」も始めました。毎日、一文を覚えます。根気のいる方法ですが、だんだんと日本語の文がわかるようになり、聾学校小学部に入学し担任の先生が継続して続けたもらえたおかげで、かなり長い文でも覚えられるようになりました(下図右)。また、「電気」の概念がわからなかった時にはノートに手書きで、家の中の電気に関連するものを一緒に探して「ことば絵じてん」を作ったりもしました(下図)。こうした方法を組み合わせることで日本語力はアップし、その後、聾学校から理系の大学に進学しました。

絵日記の中で動詞を意識的に扱う

 絵日記の中では、主語は省略されていますが(日本語のルールでは、すでに分かっていることは省略可なので「ぼくは・わたしは」は省略される)、動詞は出てきます。そこでまずは、動詞の意識化。上の最初の絵日記(年少)では「書く」「くっつける」「折る」などの動詞を手順に沿って取り上げています。また、その次の絵日記(年長)では、助詞を〇で囲み、動詞を緑色ベース型で囲って品詞分類をして「~た形」と「~ます形」の違いを意識させています。この年齢では品詞の意味はまだ難しいかもしれませんが、文の最後に来るのは緑色ベース型が多いとか文の途中にも緑色のがある(「~て」形など)とかがなんとなくわかればそれでOKです。

 また、上の絵日記のように、動詞の横にその動詞の元の形(基本形)を書く方法もあります。こうすることでその動詞は全く別のことばではなく、基本形が変化したものであることを意識させることができます。また、一つの動詞を取り出して、すでに終わったかたち(過去・完了形)や否定のかたちであることを教えることも有効です。
 さらに、受身形や可能形を使ってその意味がどうちがうかを意識させています。ただ、年中さんではちょっと難しいかもしれません。また、年長さんなら、下の絵日記のように、動詞の活用をとりあげたり、「とぐ」とか「蒸らす」「にごる」「よそう」といったちょっと難しい動詞に挑戦するのもよいでしょう(語彙を増やすために必要な方法)。

動詞をテーマのことば絵じてんをつくって整理する

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 ことば絵じてんを動詞で作ることもできます。例えば、同音異義語で作る。日本語には同音異義語がたくさんあります。上の例では「はく」。「靴を履く」「庭を掃く」「げろを吐く」等々。「あがる」とか「とる」「ひらく」といったことばにもたくさんの意味の違ったことばがあります。また、調理の仕方では「煮る」「揚げる」「蒸す」「焼く」などの動詞を使っていろいろな調理法の分類もできます。こうした整理をするのも語彙の拡充につながります。ぜひ、「からだの動き(這う・転がる・寝る・立つ・走る・・・)」「手指や腕の使い方(握る・つまむ・つかむ・叩く・指さす・・・」など、いろいろな動詞でことば絵じてんを作ってみるとよいと思います。「自動詞・他動詞ペアリスト」はことば絵じてんではなく壁に貼ったポスターで、ある難聴学級にあったものですが、このように分類整理することで自・他動詞が整理され、記憶しやすくなります。記憶しやすいということは、動詞の語彙が豊かになることに繋がります。

ワークを使う

『ことばのネットワークづくり』(本会発行)を使う

 ことばを自分の経験の中で使う段階から、ことばを取り出して、その”ことばについて考える”力がついてきたらワークが使えるようになります。というか、ことばを生活経験から取り出して対象化し、ことば自体について考えられる力をつけるためにワークは有効です。例えば筆者が作った『ことばのネットワークづくり』は、ことばをあらゆる角度から取り上げて、ことばを集めたり、まとめたり、比べて違うところや同じところを考えるよう作ってあるので、語彙を整理し増やすためには有効な教材です(文科省特別支援教育一般図書(=教科書)採用)。動詞についても例えば上図のように「反対ことば同音意義語」「擬音語・擬態語」「動詞の活用と手話表現」などさまざまな観点から作ってあります。

『絵でわかる動詞の学習』(本会発行)を使う

 このワークは、動詞語彙や活用などを学習するために、動詞に特化したワークです。きこえない子の苦手な「あげる・もらう・くれる」といった授受表現、「する・される」といった受動・能動表現、「させる・させられる」といった使役・使役受身表現などについてもわかりやすく学習できるようになっています。

 以上のように、今回は、①会話の中での動詞の使い方、②絵日記の中での動詞の扱い方、③ことば絵じてんを使った動詞の整理の仕方、④ワークを使った動詞の広げ方の4つの方法について紹介しました。それぞれの子どもに合った方法で、楽しみながら動詞語彙を増やしていけるとよいと思います。

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