乳幼児期の「写真カード」の作り方と使い方

視覚教材
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実物の代理物(Symbol)のある便利さ

 赤ちゃんは生後6か月を過ぎると、だんだんと経験したことを記憶(イメージ)できるようになってきます。ママのことや自分の家の中のことをよく覚えているので、人見知りや場所見知りが出たり(8カ月頃)、また、ママが見えなくなるとママの後追いもするようになります。

 このように自分の経験を記憶できると、頭の中に経験したことのイメージが残っているので、その時の写真を見せれば思い出すことができるようになります。例えば、家族で新幹線(電車)に乗って楽しかったという経験をしたとしたら、その時の新幹線(電車)の写真を見ると新幹線の電車を思い出すことができます。このとき、写真に写っている新幹線の写真は、実物ではなく新幹線の代理物(象徴)にすぎません。でも、実物が目の前になくても、頭の中の記憶をたどって「新幹線に乗ってたのしかったね~」と子どもと経験を共有することができます。新幹線の実物が目の前になくてもいいわけですから写真という代理物が使えるのは互いに思いを伝えあうときには確かに便利です。このような代理の機能をもつことを「象徴機能」(表象機能)と言います。

 また、1歳前後になると、子どもは自分の乗った新幹線を思い出して、積木を新幹線の代理にして遊んだりもします。いわゆる「見立てあそび」です。楽しかった経験を思い出して一人で頭の中にイメージを浮かべて楽しんでいるわけです。この時、積木は新幹線の代理(象徴)です。これも象徴機能のあらわれです。
 このように、写真や積木は、一緒に経験していたママやパパには「ああ、あのときのことを思い出しているんだな」とわかりますが、他人には子どもの描いているイメージはわかりません。もう一歩進んで、その絵がさらに「し・ん・か・ん・せ・ん」という日本語や/新幹線/という手話と結びついたとき、これらはだれにも通じるものですから、一般化・社会化された代理物(象徴)として使うことができます。「しんかんせんだよ」と言えば、だれにも通じます。これが最も高度化された象徴機能である言語です。

写真カードの意義

 事例のAちゃんは生後9か月の難聴児です。ベッド(実物)とベッドの絵(代理物)を見比べながら同じだねと手話をすると、子どもはその写真とベッド(実物)を見比べて照合し、「同じだ」という意味の指さしをしています。また、お風呂の写真カードを見せながら「お風呂」の手話をすると、子どもはお風呂のイメージが自分の頭の中に浮かび、ニッコリとしています。お風呂の実体験と写真カードとはすでに結びついていて、そこに/風呂/(手話)という言語をマッチングすることで、風呂(実体験)と手話とが結びついたようです。さらに、靴下に描かれたパンダの絵をみて、「パンダ」の手話をすると、子どもは靴下の絵を指さしています。絵というパンダ(実物)の代理物と「パンダ」という手話(言語)とが結びついているようです。
 このようにして写真や絵は、実物と言語とのあいだにあって、実物と言語とが結びつきやすくなるための橋渡しをしてくれています。手話は身振りから発展したものが多いので(例えば「新幹線」という手話は新幹線の先頭の尖った部分を象徴しています)、実物のイメージを描きやすく(意味がわかりやすい)、言語として獲得しやすいですが、日本語での「しんかんせん」は単なる音のつながりですから、赤ちゃんに意味がわかるわけではありません。しかも、難聴児とくに感音性難聴児にとっては、例え補聴器をしたとしてもきこえてくる音は、明瞭に一つ一つの音韻が区別できない音のかたまり(例えば「イーアーエー(しんかんせん)」程度)ですから、そう簡単にはことば(言語)にはなりません。そのようなときに、実物とことばを橋渡しして結びつきやすくしてくれるのがこの写真や絵なのです。

写真カードの作り方

 ここでは、写真カードや絵カードの作り方で、よくある質問から(上図参照)。まず写真を撮るときは子ども目線で撮りましょう。子どもがなにに関心を向けているか、どこに視線を向けているかに注意して作ります。また、写真と絵では、写真のほうが実物に近いのでわかりやすいのですが、写真には背景にいろいろなものが写り込むという欠点があります。その点に注意をしておきましょう。子どもがいつも自分で見れるところに置いておくこと、舐めたりしても安全な材質・形への配慮も大事です。

 それから写真・絵カードの主な用途は、目の前に見ることができるモノや人、場所などの名詞です。「うれいしい」とか「きれい」といった感情や「食べる・飲む」「行く・帰る」といった動作語(動詞)には使えません。さらに、写真とことばが結びついたらことばとして獲得できたかというとそうではありません。子どもはその写真がことば(例:「パンダの写真」が「パンダ」と思っている)だと思っているだけかもしれません。ことばを実物と結びつけるためには本物と出会う経験が大事です。五感を使ってほんものと出会い、体験することがそのものの概念の豊かな獲得につながります。

写真カードの使い方

 写真カードをどのように使っているか、難聴児のお子さんをお持ちのママさんたちの使い方をいくつか紹介します。子どもと一緒に生活するとき、遊ぶときいろいろな時に使っています。子どもが興味を持ったものと写真とことば(手話も音声も)をマッチングしましょう。実際の生活の中で工夫しながらうまく使ってみてください。

写真カードから絵日記、ことば絵じてんへ

 最後に写真・絵カードと「ことば絵じてん」や「絵日記」へのプロセスを紹介しておきます。「ことば絵じてん」はある程度ことばを身につけてきた2歳半~3歳頃から、ことばの概念を拡げたり整理していくときに使います。
 また「絵日記」も同じころから使えます。絵日記は子どもがその日に経験したことを振り返り、将来の書きことば習得へとつないでいくものですが、絵日記は子ども自身の体験そのものの絵やことば(文字)での表現なので、子どもは体験したことを振り返ってイメージしやすく、さらに絵やことばに仕掛けをつくったり、再現あそびをしたりして楽しむことができます。
 しかし「ことば絵じてん」は、関係あるもの・ことなどの集まりなので、絵を集めて並べただけでは楽しむことができません。ですから、ことば絵じてんを作るときも、子ども自身の体験と結びつけて(例えば、出かけるときの持ち物とかよく行く公園の遊具とか子どもの好きなキャラクターなど)、子どもの興味・関心をひくものを集めてページを作り、その集まりに名前をつけるのがコツです。

参考になる記事

☆体験したこと、「ことば絵じてん」にしてみませんか?
https://nanchosien.blog/word-picture-book/#wordpicturebook

★発達に沿った絵日記の描き方
https://nanchosien.blog/how-to-write-diary/#picturedialy

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