手話で育つ豊かな世界~その子らしさを実現する支援・教育を求めて

出版案内
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 この書籍は、発達の早期から手話を積極的に使ってきたろう学校の在校生・卒業生、その保護者44人と、その支援・教育に関わってきた聾者・教員・ST・研究者など17名の計61名によって書かれた実践の記録・報告・論文集であり、手話をテーマにして書かれた書籍としては日本で最初の本です。 
 ここには人工内耳を装用している高校生・中学生や軽・中度の大学生・高校生・中学生など、病院では「きこえているから手話は要らない」と言われてきた本人たちを含めて、手話を発達の早期から使ってきた保護者・本人たちが、手話がなぜ必要なのかをそれぞれの立場・視点から明らかにしています。
 また、支援・教育にあたってきた側からは、発達早期から手話という言語でコミュニケーションが成立することが、その子どもの情緒的な安定や意欲、自己肯定感などを育み、また認知・概念形成・思考力を促すことを論じています。

全国早期支援研究協議会 発行
B5版 124頁 900円(税なし)

目次

手話と日本語と自己肯定感と・・・

  耳鼻科医田中美郷先生(帝京大名誉教授)は、この冊子の論稿の中で①「2歳では人工内耳装用は遅いという理論的根拠は何もない」こと(木島注:実際この本に登場する5名の装用児達は皆3~4歳装用で、現在、十分に人工内耳を使いこなしています)、②大事なことは「一つの言語(手話であれ音声言語であれ)を能力の許す限り習得させる」ことであり、そのためには自然言語としての手話が有利という証拠は否定できないということを最近の米国の研究論文を引用しつつ述べておられます。

 この点は確かに私もそう実感しています。私は10年以上に渡って発達早期から手話を使っている子どもたちの発達検査や言語検査等をやってきて、とくに3歳までにしっかりと手話で言語獲得してきた子は、言語を使って「考える力」がよく伸び(これはこの冊子掲載の拙稿93頁~をご覧ください)、そのことがのちの日本語力や学力に繋がっていることを実感しています。 
 また、手話はこうした「認知能力」だけでなく、「自分は価値ある存在だ」という自己肯定感を育み、自己肯定感は物事に取り組む意欲や積極性、粘り強さ、集中力や工夫する力、失敗しても挑戦する自己回復力、自分をコントロールする自制心、集団の中でのリーダーシップなど、いわゆる「非認知能力」の発達にもつながっていることを実感しています。ただ、こうした「非認知能力」は客観的に数値で評価することが困難です。しかし、それゆえにこそ、この冊子の本人・保護者の手記こそがそのエビデンス(証拠)であり、大切な意味をもっていると思います。ぜひそうした非認知面での成長ということも、この冊子の中から読み取っていただけるのではないかと思います。(木島照夫)

推薦のことば~飯高京子(東京学芸大学名誉教授)

「この本は、大塚ろう学校や葛飾ろう学校で手話を使って育ってきた本人たち、保護者の方々、関わってこられた先生方など60人の方々の協力による発達早期から手話を使う教育の意義を伝える体験記録集(2020.11刊行)です。手話も日本語も、その子らしさを実現するために、多様性を大事にした支援・教育の様子が報告されており、私は読みながらこれ迄私の受けてきた「手話に対する考え方」が、健聴者の一方的立場からの方法論であったことをきびしく思い知らされました。 

  今回の報告書を読んで、改めて私が健聴者・健常者優位の、上からの目線で制約を抱えた方々や親御さんに接してきたことを反省しました。私は障害を持つ方々へ支援をする仕事につきたいと願い、1955年高校卒業後米国へ留学し、当時まだ新しいとされた言語病理学を学びました。その留学の道を開いて下さった恩師、近江兄弟社学園長の一柳満喜子先生は「教育者は、その子どもに与えられた賜物を見出し、その力を精一杯生かせるよう支援すること」であり、「制約をもっ人への支援は、上からの目線で教えこむのではなく、相手と同じ目線に立ち、相手の可能性を引き出すこと」。日本ではまだ「お気の毒な人へ慈悲をほどこす姿勢が強いから、そうではない見方ができるよう留学しなさい」と勧めて下さいました。私は、満喜子先生のご助言を受け、渡米・留学の道を選びました。今回の報告集「その子らしさを実現する支援・教育を求めて」は、まさしくその理念追求ですが、私はこれ迄、聴覚障害児者の手話の大切さを十分理解していなかったこと。私を米国へ送り出して下さった恩師の一人、私の中学・高校の家庭科教師で全ろうの故西川はま子先生は口話のみの教育を受けられたこと。私の受けたこれ迄の「専門教育」には、手話の大切さが取り上げられていなかったことなどを改めて思い返し、反省しました。
 渡米していきなり英語環境で学ぶことは私にとってとても大変でした。高校迄は読み書きや英文法中心に学んだ私は、教授の「早口講義」について行けず、黒板に書かれた文字や教科書を手掛かりに理解しようとしても難しく、途方にくれました。周囲の人々の様子を観察して彼らが笑うと、何か冗談が話されたのだな、と推察するのが精一杯でした。親切そうな同級生を探し、講義ノートを見せてもらって授業内容の概略を知り、参考になりそうな挿絵入り小中学生用の本を市立図書館から借りて、内容背景となる社会や文化を学びました。少しずつ慣れてきて理解できる英単語が分かっても、講義内容の全体像を十分把握できませんでした。その不安と焦りにつきまとわれました。難聴者の学生さんが、口話中心の授業や企業環境に適応することには、とても苦労が多いこと、また視覚的な手掛かりが非常に大切であることが推察されます。

 近年、聴覚障害乳幼児に人工内耳の早期適用が推奨され、外界の音を導入さえすれば、彼らの問題は解決されるであろうとの考えが、医学会を中心に強まりつつあると聞きます。しかし外界からの聴覚刺激を入れるとき、その音のつながりに代表される「ことば」の意味づけや、その「ことば」が使われる社会や文化のしくみの理解も併行して育つことが大切です。聴覚に障がいのある子どもは、音のつながり(連鎖)の意味を理解しやすい手話からも受け入れながら、自分と自分の周囲の世界を理解し始めます。「ことば」は、自分を愛し、受け入れてくれる親や周囲の人々を信頼し、心を通わせることを通して育つからです。初めて聴覚に問題があると診断された乳児の保護者の中には、その障がいを受容するのがとても難しかった方の事例報告もありました。親の不安や迷いは子どもにすぐ伝わります。子どもの制約をありのまま受け入れることは大切だと分かっていても、親がわが子の将来に期待していた夢を砕かれたときの思いはそう容易に癒されません。わが子をあるがままに受け入れ、子どもの将来を前向きに考えられるようになるのは時間がかかり困難な過程です。今回、私自身が息子の挫折を受け入れる体験を通し、同じ体験をした親御さんたちに励まされ支えられて、親子共々、少しずつ元気を取り戻しています。ですから、ろう学校の担任だけでなく、先輩の方々の事例や保護者からの励ましと支えあいは、とても貴重だと思います。

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