聾学校での日本語文法指導の実践~「一人一事例の取り組み」

実践の記録
この記事は約4分で読めます。

  今回は、ある聾学校の小学部と中学部で学部として取り組んだ日本語文法指導の実践を紹介します。自分の担当する教科や学級で全員が取り組んだ実践で、「一人一事例の取り組み」としてまとめた貴重な実践です。

小学部の実践

 ひとことで文法指導といっても、さまざまな指導の内容と指導の段階がありますが、きこえない子の日本語文法力の課題についてアセスメントすると、多くの子が躓いている文法事項が動詞の活用助詞の用法です。動詞は事物名詞のように「見える」わけではありませんし、非常に複雑かつ多様に変化・活用するので、きこえない子は苦手です。
 また、助詞は名詞や動詞と違って、その語だけ(「が」とか「を」とか)を取り出しても意味をなさないので、必ず文の中で、その意味や使い方を学ぶことが必要です。また、日本語の特徴として、互いに文脈が共有されている会話の中では省略も頻繁ですし、例え発語したとしても音圧も弱く瞬間的(ほとんど一音)で、また同口形の助詞も多く(「が」と「は」、「で」と「へ」、「を」と「と」と「の」など)、さらに会話は聴力や周囲の状況にも影響されるので、日常会話の中で助詞を身に付けるのは至難の業です。
 ですから、基本的には小学部の低学年の段階で、動詞(含形容詞等)の活用と助詞を意図的に指導するとよいですし、国語教科書ともリンクして指導できるのは低学年の教科書なので(4年生以降になると教科書の内容や使用構文が複雑になるので難しくなる)、この3年間で動詞・助詞をマスターすることを目標に文法指導に取り組むのがよいです。そのような観点から、また、文法指導の取り組み一年目ということもあり、この聾学校小学部では、動詞の活用と助詞の指導を中心に取り組まれています。今回取り組まれた文法事項は以下の通りです。

学年教科名指導内容
2年国語「どうぶつ園のじゅうい」・・受動文と能動文
2年音楽動詞の活用(曲想との関連)・・動詞のアスペクト
2年自立活動動詞語彙の拡充
3年動詞の活用(短い形と長い形)
3年自立活動助詞「に」
4年国語「正しい文章で日記を書こう」・・品詞分類、動詞の活用
5年国語「助詞の使い方」
5年比較表現「~より」
6年日記指導動詞の活用(過去形と非過去形)
6年理科形容詞(比較表現)
6年自立活動品詞分類、文づくり

★小学部研究のまとめ

中学部の実践

 中学部になると基本的に教科担任制になるので、日本語力が不十分な生徒がいた時に、だれが、いつ、どこでその生徒の日本語の力を底上げするのか、という問題が生じます。「自立活動」の中で手当てできるくらいの日本語の課題であればよいですが、いわゆる『9歳の壁』前の小学校低・中学年段階にとどまっている日本語力の生徒へは、基礎的な日本語力アップに皆で協力して取り組まない限り、結局、問題がそのまま積み重なっていくことになります。その結果、社会に出て上のような指摘を受けることになります。
 これは本人の問題ではなく、あきらかにその生徒の教育に関わってきた学校教育の問題だと思います。とはいっても、中学部の先生方からすると、「下の学部・学年でしっかり日本語の力をつけてこなかったからこういう結果になっているわけだから、今からどうこうしろと言われても・・」というのがホンネかもしれません。そして結果的に、生徒は「放置」され、そのまま学校を卒業して社会に出ていく。こうした悪循環をどこかで断ち切ることが必要なのですが、今までその問題に取り組んだ学校や学部は少なくとも私の知る範囲ではあまりありません(個人の力でなんとかしないと、と取り組んだ先生はいらっしゃいますが)。
 しかし、その問題を自分たちの問題として受け止め、みんなでやってみよう、と取り組んだ実践を以下に紹介します。

  今回、学部でターゲットを絞って取り組まれた文法事項は、受動文と、比較を表す助詞「より(国文法では、助詞ですが江副文法では「時数詞構成語」として扱います)です。もちろん文法的には、ほかにもクリアしなければならないことは沢山あります。例えば、受動文のほかに「使役文」「授受文」といった難聴児の苦手な文法事項もありますし、それらに関連して助詞(が、は、を、に、で、の、と)の習得や動詞・形容詞の活用の習得といった問題もあります。さらには、接続詞、副詞、なにで名詞(形容動詞)の課題もあります。名詞修飾などの複文の理解も必要です。

 ただ、一度にあれもこれもは取り組めません。まずは「受動文」と「~より」を取り出し、その指導方法について先生方も学びながら、学部みんなでそれぞれの教科の立場から生徒の文法指導に取り組んだということが貴重だと思います。以下、一人一事例の取り組みを紹介します。

 ☆中学部研究のまとめ

タイトルとURLをコピーしました