日本語の基本構造
私達が日々、話したり、読んだりしている文は、決まった文の形でできているのでしょうか? もしそうだとしたら、その文型はどのようなものでしょうか?
日本語の基本的な構造は、まず、述部(述語)と複数の成分があって、その述部と成分との関係を結び付けているのが助詞(が、を、に、と、で等のいわゆる格助詞)です。そして、述部(述語)にとって欠かせない必須の成分があり、この述部(述語)と「必須成分」との組み合わせを文型と呼んでいます。
日本語の基本文型は、だいたい下の5つと言われています(上図の基本文型は動詞の場合)。そして述部が名詞で終わる文型は基本文型Ⅰのみ、形容詞で終わる文型は基本文型ⅠとⅢ、動詞で終わる文型はⅠ~Ⅴで、文の文末(述部)は動詞になることが圧倒的に多いことがわかります。そしてこの5つの基本の文型に、さらに文を詳しくするための様々な成分(「随意成分」)が加わって長い文ができるという構造になっています。
ですから、どのような長い文でも随意成分を取り除いていくと、この5つの基本文型のどれかになります。以下、小2国語教科書(光村図書)の単元『スーホの白い馬』の中の文を使ってそれぞれの基本文型についてみてみます。
五つの基本文型
基本文型Ⅰ 「~が+動詞・形容詞・名詞」
図の一番上の名詞文を例に考えてみます。述部「少年です」だけでは「誰が」少年なのかわかりません。ですからこの文には「誰が」という成分(必須成分)が必要です。そこで加えたのが「スーホが(は)」の部分。これで意味的に不足のない文になります。同様に、二番目、三番目の文は「ひろい」「暮らしています」だけではそれぞれ「どこ(なに)が」「広い」のか、「だれが」「暮らしている」わかりません。欠けている部分(成分)を加えるとそれぞれ図のようになります。これが基本文型Ⅰです。
基本文型Ⅱ 「~が~を+動詞」
基本文型Ⅱになるのは、動詞だけです。といっても助詞「を」が必要となる動詞は決まっています。例えば「食べる」は、助詞「を」と一緒に「~を食べる」と使いますが、「~に食べる」とは言いません。助詞「を」が必要な動詞は図にあるような動詞です。これらの動詞は、必須成分と助詞「が」「を」と共に使います。
基本文型Ⅲ 「~が~に+動詞・形容詞」
基本文型Ⅲは、助詞「に」を必要とする動詞と形容詞(一部なにで名詞含む)です。「やさしい」だけでは「だれが」「なにに」やさしいのかわからないので、「スーホは」「みんなに」という必須成分と助詞「が(は)」「に」が必要です。動詞の場合は図に示したような動詞で、これらの動詞は助詞「に」を必要とする動詞です。
基本文型Ⅳ 「~が~と+動詞」
基本文型Ⅳは、助詞「と」を必要とする動詞が述部に来ます。「だれだれと」という成分を必要とする動詞です。数としてはそれほど多くありません。
基本文型Ⅴ 「~が~に~を+動詞」
基本文型Ⅴは、必須成分が一つ増え、助詞「に」と助詞「を」の二つが必要な動詞の文型です。二者間での何かをやり取りするときに使う動詞などを中心に、この文型で使う動詞のかずは限られています。
難聴児に基本文型の学習が必要な理由
私たちは文を読むとき、ほとんど無意識のうちにこの基本文型を使って、文の構造を読みとって解釈しています。例えば、「台所で作った」という文を読んだ時、即座に「だれが」「なにを」作ったのだろう?と考えます。「作る」という動詞には、「~が」「~を」という成分が必要でそれがないと不完全な文と感じてしまい、知りたくなるわけです。
このように私たちの頭の中には基本文型がインプットされていて、その文型を使ってほとんど無意識のうちに文を読み取り解釈しているので、必須成分が欠けていると不完全な文と感じてしまうわけです(ただ、日記などではいちいち「ぼくは」という主語は書きません。日本語の場合、最初からわかっていることや文脈の中でわかっていることは省略してかまわないルールがあるので「ぼくは」という主語が欠けていてもあらかじめわかっているので違和感がないだけです)。
しかし、きこえない子は、習得している動詞の数も少なければこのような日本語の文型に慣れてもいません。ですから自然に身につけるのはけっこう難しい。そこで、基本の文型を意識的・意図的に指導する必要があるわけです。教科書の文を指導するときも、このような文型分けをしながら指導し、どの基本文型が使われているかを意識するようにすると、長い修飾語句がある文なども読み取り易くなります(上図参照)。教科書に出ている文は、だいたいどの文も五つの基本文型のうちのどれか(多いのは基本文型Ⅰ~Ⅲ)になります。
参考になる記事・書籍
☆「YouTube日本語講座第26回 文のかたち~五つの基本文型
https://nanchosien.blog/form-of-sentence/#five-sentence
★『きこえない子のための新・日本語チャレンジ』難聴児支援教材研究会 A4版 184頁 1,600円https://nanchosien.blog/challenge/#challenge