この検査は、幼児期から大人までの幅広い年齢の方の日本語の語彙力・文法力(主に文法力)をみることができる検査です。といっても、検査で調べられる年齢の幅はだいたい3歳から小学校4年生くらいまでの日本語の文法力です。それ以上の年齢の文法力はみることができません。
ただ、小学校4年生という年齢はいわゆる「9歳の壁」といわれる年齢ですから、聴覚障害のある子どもにとっては、基礎的な日本語の語彙力・文法力をみる上で役立ちます。とくに難聴幼児が基礎的な語彙を習得しているかどうか、小学生が教科書を読むために必要な文法力をつけているかどうかをみることができるので、聾学校や難聴学級では必須の検査といってもよいと思います。年1回でよいので定期的に実施することで、その子の文を「読む」力(幼児では「きいて理解する力」)が把握でき、保護者にフィードバックすることで、日々の家庭での生活の中での会話やあそびなどで、どこにポイントを置くとよいかを知っていただくことが出来ます。
検査の概要
J.cossは、第二部「文の理解」がメインで、通常、こちらをJcoss「本検査」と私は勝手に呼んでいます。本検査は、図のような20の語彙・文法項目からなっており、20の各項目にそれぞれ4つの問題があります。それら各項目中の4問ともいずれも正解の時、その項目は「通過(Pass)」となります(3問正解しても「通過」とはなりません)。
また、Jcossには、第一部「語彙の理解」という検査があります。これは第二部の検査に使用する語彙40語(名詞27語,動詞8語,形容詞5語)について、あらかじめチェックする項目(私は「語彙チェック」と勝手に呼んでいます)になっています。私がこの「語彙チェック」を使うときは、日本語で実施するにはかなりハードルが高い(ほとんど日本語が習得されていない)場合です。そうした子どもには、この40語について日本語でどのくらい理解できている語があるか、また、手話ならどのくらい理解できているのかをみます。
検査の実施方法
幼児は、個別検査として1対1で検査者と向き合って実施します(小学生以上では、問題をプロジェクター等で投影して集団検査として実施する場合もあります)。
まず、日本語で実施
基本は日本語の語彙力・文法力をみる検査なので、検査者がまず声を出して問題文を読みます(問題文の文字を指でおさえながら)。そして、指差しで回答させるようにしますが、子どもの「読みの力」を見たい時などは、子どもに自分で文を読ませて回答させることもあります(年中くらいになると自分で読める子も出てきます)。
Jcoss20項目中、幼児期にどこまでやるのかということですが、幼児期ならまず7項目めの「置換可能文」までやるようにします。そこまでやってみて、さらにできそうな場合は10項目め(Jcoss前半項目)までとりあえずやってみましょう。10項目めまでやってほとんど通過しているなら(かなり日本語力のある子)、その先の項目(Jcoss後半部分)をやり、不通過項目が2,3項目続いたら打ち切ります。
手話で実施する場合
また、日本語力はまだ十分でないが、手話で理解できる子どもには、手話でどこまで理解できるかみることもできます。
やり方としては、まず、問題の語・文を日本語で検査します。正解した場合は手話での再提示はしませんが、もし間違った場合、「では、手話でやってみるから見ていて」と言って手話で問題提示をします。日本語では難しくとも、手話でなら文の理解が出来、JcossNO7の「置換可能文(可逆文)」あたりまで「手話で通過」する幼児は、年中くらいの年齢ならけっこういます。採点としては、日本語と手話は別にします。
検査の見方
単語レベル(第1水準・年少段階)
NO1. 名詞
Jcossで使用されている名詞は「靴、犬、鳥、りんご」の4語です。これらの語は、3歳の聴児であればほぼどの子も知っている基本的な名詞です。ここが通過できていない場合は、日本語の単語がかなり不足している子ですから、日々の生活の中で意識的に日本語の語彙を広げる必要があります。その際、名詞がもっている上位・下位概念のシステムが習得されていない可能性が大きいので、物の名称(基礎語)とその物のカテゴリーが習得されているかをチェックします。難聴幼児は、下位概念である基礎語(例「みかん、りんご、ぶどう・・」)は習得していても、その上位概念の名称(例「くだもの」「食べ物」など)が習得されていない場合が多いので、上位概念を含めて習得するよう留意します。ただ、Jcossでは上位概念のことばが習得できているかどうかはみることができません。そこで使用する検査は「絵画語彙発達検査」です。絵画語彙検査では、「果物」「動物」「乗物」「食事」「料理」などの上位概念語を調べることが出来ますが、それでは不十分なので検査の絵を使って、「花」「鳥」「魚」「スポーツ」などを補足的に調べることが出来ます。もちろん、これだけでは十分とは言えないので、絵カード等を使って「野菜」「虫」「お菓子」「文房具」「楽器」「服」「食器」「調理道具」「掃除道具」などを尋ねてみるようにします。
NO2.形容詞 NO3.動詞
単語問題は聴児年少レベルの問題なので、年長になっても形容詞や動詞が通過できていない場合、毎日の生活の中でのやりとりや絵日記の中で意図的にとりあげます(上図参照)。しかしそれだけでは十分とは言えません。とくに動詞は、文を作るうえでは欠かせない品詞です。そこでワークや絵カードなどを使って語彙を増やしたり、それらの語の概念を比べたりまとめて整理したりなどことばあそびの中でも工夫することが必要です。
例えば、形容詞には「大きい―小さい、高い―低い、長いー短い」といった反対概念の語がたくさんあります。そうした語を使ってあそぶことも考えてみましょう。また、動詞は、日常動作語が幼児には最も理解しやすいので、そうした語を使って「すごろく」を作るとか「動詞ビンゴゲーム」などを作ってあそぶなどいろいろなことばあそびを考えて楽しく遊ぶようにします。
語連鎖レベル(第2水準・年中段階)
NO4.二語文 NO5.二語否定文
JcossNO4の二語文は通過しやすい問題ですが、NO4の「二語否定文」は、動詞の否定形がわからないと通過できません。つまり動詞活用が理解できていることが必要です。ただ、小学生であれば、系統的な文法指導を行う中で「動詞の活用」(及び「形容詞の活用」)の指導を行うのがよいですが、幼児にはこのような指導はなじまないので、動詞の基本4形である「~ます、ました、ません、ませんでした」にしぼって、絵日記の中などで指導するとよいでしょう。
NO6.三要素結合文(非可逆文)
このJcossNO6までの問題は、習得する語彙数が増えれば「通過」は基本的に可能です。助詞の用法の理解など文法の習得度によって左右されません。例えば上図のような問題21においては、助詞がわからなくても単語さえわかっていれば十分に子どもは文を読んでどのような場面になるのかイメージできます。このような文は、助詞が入れ替わるとあり得ないことになってしまうので(箱が男の子を跳び越すことはありえない)、助詞の入れ替えが出来ません。こういうタイプの文を「非可逆文」と言っています。こうした文は助詞関係なく単語だけでも意味がわかります。しかし、次のNO7の文はどうでしょうか?
文法レベル(第3水準・年長段階)
幼児期のJcossは、ここまで通過していれば同年齢聴児と同じ水準です。ということは、このあたりまで到達していれば、聴児と同じように小1国語の教科書を読んでだいたいの内容を把握できるレベルに達しているということです。小学校就学頃に7項目通過を目標にします。
NO7.置換可能文(非可逆文)
Jcoss7項目「置換可能文(可逆文)」が通過していない場合、助詞「が、を」が十分に理解できていない可能性が高いです。ただ、語順で理解している可能性もあるので、小学生であればNO19の「格助詞」の2,3番目の項目(74「馬を 牛が 押しています」75「男の子を羊が見ています」)も含めて検討し、理解が不十分と判断される場合は、助詞の指導から始める必要があります。
幼児なら、助詞「が」「を」を使って、どちらが動作主(主語)で、どちらが対象(目的語)になるのか、絵カードや助詞カードを使って指導します。その指導の方法については、下記の記事を参考にしてください。
☆幼児に助詞を教える方法~「助詞カード」であそぼう!
https://nanchosien.blog/how-to-master-parti#particleposition-3cle/
★「日本語、苦手」という幼児への助詞の指導法
https://nanchosien.blog/how-to-teach-particle-gawo/#how-to-teach-particles