難聴児の認知と言語の発達(5)1語文から2語文へ~複数のことを関係づける力の発達

手話
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1歳代のことばは、まず単語でいいたいことを表現する一語文に始まり、1歳後半になってくると、獲得する単語(手話)が急激に増えてきて(「語彙爆発」)、単語だけであらわしていた一語文から、徐々に二語文に移行していきます。今回はその発達の過程について認知的側面と関連付けて考えてみたいと思います。

きこえない子の特徴的な手話の使い方~指差しと「ほしい・~たい」

 きこえない子は1歳代に手話の単語を獲得していきますが、二語文になるには要求をあらわす動詞や状態をあらわす形容詞といった述部を構成する単語の獲得が必要です。
 手話の場合、①指差しがしばしば使われること(*)、②要求表現としての個々の動詞がまだ獲得されていないとき、その代わりに「ほしい・~(し)たい」の手話がよく使われます。例えば、保護者の育児記録にも以下のような使い方がみられます。

(例)a.「指さしほしい」=(隣の部屋)に(行きたい)(P児・1歳3か月)
    b.「ねこ+ほしい」=(ねこ)と(遊びたい)(Q児・1歳4か月)
     c.「番組名+ほしい」=(テレビ番組名)が(見たい)(R児・1歳8か月)
   d.「車+指さし」=(車)で(行きたい)(S児・1歳6か月)
  
   e.「開ける+ほしい」=(開けたいor開けてほしい)(P児・1歳7か月)
   f.「飲む+ほしい」=(飲みたい)(R児・1歳7か月)
  
 上のa~dの指差しや「ほしい・~(し)たい」の使い方は、表現したいが手話を知らないのでとりあえず代わりに使っているという印象ですが、e とfは「動詞+ほしい・~たい」で、手話の文法と合致した使い方になっています。 
 また、下の例のような、楽しかったことを一人で思い出していることがよくみられます。

 このような経過を経て、上の事例(1歳8か月)のような名詞+動詞・形容詞といった本来の二語文が生成されるためにはどのような認知面での発達が関わっているのでしょうか? 次の節ではそのことについて考えてみたいと思います。

二語文の土台にある認知発達とは?

 日本語でも手話でも一語文から二語文が生成できるためには、主語になる名詞と述部になる動詞や形容詞といった二つの単語を関係づけて思考できることが必要ですが、きこえる子もきこえない子も1歳半頃から2歳頃にかけて、ものともの、できごととできごと、単語(ことば)と単語(ことば)といった二つの要素を同時に考慮して思考し、それらをまとめて一つの行為や文として表現する力が芽生えてきます。その関係づける力は、さまざまな面でみられます。例えば「ままごと」の場面で考えると、図のような変化がみられます。

①1歳頃「りんごのおもちゃを食べる真似をする」(ものはひとつ)

②1歳半~2歳頃「切るもの(おもちゃの包丁)と切られるもの(りんご)との関係を理解して、おもちゃの包丁で切る真似をする」(二つのものの関係を理解)

③2歳頃「切ったりんごを皿に入れて出す」 (三つのものの関係を理解)

 上記②③の頃になると、複数のものとものとの関係の理解や、事柄と事柄の順序や手順(スクリプト)がわかるようになります。このような二つのことを関連づける力の発達が土台にあって、ままごと場面であったり、かずの場面であったり(「2つちょうだい」の理解)、着替えをしたら顔を洗うといった生活習慣の場面であったり、そして言葉の面では、複数の単語を並べて一つの文にまとめた二語文が使えるといった力としてあらわれてくると考えられます。しかし、その途上では、以下のような例もみられます。

Tが醤油の瓶を持ち出し、中身をリビングの床に空けた。「Tちゃん!いけないよ!床がこんなに汚れちゃったよ!これは食べ物だから遊んではいけないよ!」と手話で伝えた。(1歳9か月)

上の事例では、Tちゃんは「醤油はかけるもの」「おかずはかけられるもの」と理解しているのですが、その関係は「醤油とおかず」には適用できても「醤油と床」については適用できないことがまだわかっていなかったということになります。生活の中で適切に行動できるようになるためには、関係の理解の広がりが大切です。「クツ」は自分の靴だけが「クツ」ではなくて、家族や友達の靴も「クツ」、絵の中の靴も「クツ」、関係の拡がりとそこに関わるイメージ(symbol)の拡がりが必要です。では、関係を理解する力をひろげ伸ばすにはどんなことが大切でしょうか? 

どんなかかわりが大切か?

物事を手順通りに進める力、二つのことを同時に処理する力を伸ばす

 まず規則正しい生活リズムということ。寝る時間も起きる時間もまちまち、食事やトイレの時間もその日によって違うという生活の中では、「次を予想して行動する力」は育ちません。子どもが予想できるためには、これが終わったら次はこれ、という規則正しい生活が大事です。また、複数のことを頭に入れて記憶し、それらを実行する力は、関係づける力や記憶する力にもつながります。
 例えば「パパに新聞を持って行って、コップをもらってきて」「靴を履いて帽子をかぶってね」(二つのことを記憶して実行する)とか、衣服の着脱や食事の準備の手伝いなど生活習慣の繰り返しの中で操作手順をマスターする力などです。

さまざまな遊びを通してシンボル機能の発達や関係を広げる支援を心掛ける

 シンボルの発達といってもシンボルにはいろいろあります。ことばはもちろんシンボルの一つですが、ほかにもイメージ、描画、真似・模倣、再現遊び(象徴あそび)などさまざまなシンボル機能があります。先にあげたままごとなら、コップでお茶を飲むふり→コップを皿にのせて出す→というふうに発展させていますが、このような物と物との関係を拡げたり、さらに別の人にも関係づけたりなどあそびを広げる支援をしていきましょう。

関係づけることばを使う

 思考する力を伸ばすには、関係をひろげたり深めたりすることばが必要です。上の例のような「同じーちがう」(異同・仲間づくり)、「~だから・から」「どうして~」(原因・結果)、「どっち」(比較・選択)、大小・長短・明暗などの比較・反対概念など積極的に使うようにします。

単語の会話から二語文の会話へ広げる

 日常会話とくに日本語では文脈が共有されていれば単語だけでも会話が成り立ちます。そのためになかなか一語文から抜け出せないことが起こりがちです。図のような意図的な会話(拡充模倣)で二語文を引き出していくことをやってみるのもよいでしょう。

音声言語が出てきた子たち~助詞「が・の・も・と」の使用

 2歳になると心の面での発達の早い子は、自我意識が芽生え自己主張の表現として、「ぼくの~」といった名詞を二つ並べて所有を表す二語連鎖の表現や、動詞が省略された「自分で!」「〇〇が!」「××も!」など、名詞に助詞1音だけを音声(または指文字)でつけ加える表現を使い始めます。これらの表現は名詞に助詞一音節をつければよいだけなので、とくに音声言語が出てきた軽中度難聴の子どもにとっても習得のしやすい助詞です。
 また、かがくいひろしの『だるまさんシリーズ』の中に、助詞「が・の・と」を使った楽しい絵本があります。絵本を読みながら一緒に動作すると子どもたちは大喜びします。一緒に楽しみながら少し大きめの助詞カード「が・で・と・の・も」など作っておいて、動作するときにそのカードを絵や動作する子どもにあてながら動作するとさらに楽しめます。

まとめ

 語彙が増えてきて一語文が二語文になっていく1歳半から2歳頃は、複数のもの・こと・ひと・ことばを関係づける力をしっかりと身につけていくためのスタートとなる時期です。子どもとのよい関係を築きながらこの視点をしっかりともったかかわりを心掛けていきましょう!

 

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