きこえる赤ちゃんもきこえない赤ちゃんも1歳近くなると、写真や絵を見て自分の経験を思い出すことができるようになってきます(象徴機能の発達)。また、この頃、ママ(大人)が指さしたものを見たり、自分が見つけたもの・関心のあるものをママに知らせたりなど、指さしを通して自分とものとママ(大人)で、少しずつ経験を共有することができるようになります(共同注意・三項関係の成立)。このような時期が来ると、きこえない子も絵本を一緒に楽しむことができるようになります。
そこで、沢山ある赤ちゃん絵本の中から、1歳前後から楽しめる絵本で昔から定評のある絵本やきこえない子をもった親御さんが楽しく読み聞かせている絵本を何冊かとりあげて紹介してみたいと思います。ただ、0歳からとか1歳からというのはひとつの目安であって、その年齢を過ぎると楽しめないとか読むべきじゃないなどということではありません。本当は絵本に年齢は関係ありません。1歳で楽しめる絵本は5歳になっても楽しめる絵本が多いです。絵本は使い方次第。絵本の世界をお子さんと一緒に十分に楽しんでいただきたいと思います。
『いないいないばあ』(松谷みよ子・童心社)
赤ちゃんは「いないいないばあ」が大好きです。この本は、次々といろんな動物たちが登場して「いないいないばあ」をします。きこえない子も、手話で「だ~れ?」とやりながら、「いないいない」「ばあ」「ちゅうちゅう、ねずみさんだ」など手話をしながら楽しむことができます。ぬいぐるみなどを持ってきて絵本の後ろから少し出しながら、「だれ?」とやりながら、いないいないばあをすると子どもも大いに楽しめます。また、この種の絵本はほかにもあります。講談社の『いないいないばあ』(いもとようこ)シリーズ三部作などもあります。
『あっぷっぷ』(中川ひろたか・ひかりのくに)
「いないいないばあ」と同様、赤ちゃんは「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」などの”顔あそび”も大好きです。ここでは、1歳7か月のきこえない子の事例を紹介します。家族みんなできこえない子に合わせて楽しんでいる様子がうかがえます。
『じゃあじゃあびりびり』(松井のり子・偕成社) 『がたんごとん がたんごとん』(安西水丸・福音館)
『じゃあじゃあびりびり』~この絵本は、犬、水、紙など身の回りのものとそこで使われる擬音語や擬声語を合わせて表現する楽しい絵本です。破いてもよいチラシなどを持ってきて一緒にビリビリするのもよいでしょう。
『がたんごとん‥』~この絵本は真っ黒の汽車がやってきて、哺乳瓶やら果物やらを次々と載せていきます。事例の7か月のきこえない赤ちゃんに、声と同時に身体を揺すり、リズムが伝わるよう拍子をとったり、声の抑揚も伝わりやすいようにしたり。繰り返し読んであげるなかで赤ちゃんもだんだん笑顔を見せてくれるようになっています。
『ぎゅうぎゅうぎゅう』(おおなり由子文 はたこうしろう絵・講談社)
子どもが色々なものをぎゅっと抱きしめます。大好きなおかあさんと「ぎゅう」、ポカポカのふとんを「ぎゅう」など、赤ちゃんの身近なものがたくさん出てきます。子どもの好きなぬいぐるみ、おもちゃなどを持ってきて「ぎゅう」とするのも楽しいと思います。
『ノンタンおはよう』(きよのさちこ・偕成社)
ノンタンのシリーズは、いくつかありますが、これは赤ちゃんシリーズの中の1冊です。
「おはよう」から「おやすみ」まで一日の流れに沿っていろんな友達との出会いがあって楽しい。ぶたさんとごっつんこするところも赤ちゃんが喜ぶ場面です。事例は10か月のお子さん。ペープサートを作って、絵本をさらに楽しむ工夫がされているところがいいですね。
絵本に加えて身の回りのものを上手に使って、赤ちゃんのイメージがさらに広がるように工夫している事例も紹介しました。絵本はきこえない赤ちゃんの見る力、人やものとかかわる力、想像する力、手話も日本語も含めてことばの力を伸ばします。ぜひ、絵本の読み聞かせを生活の中に習慣化するとよいと思います。