「図鑑型」か「物語型」か?~その子の個性を伸ばしたい! 

子どもとの関わり方
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  聾学校の乳幼児相談に来る子どもたち。興味関心は様々です。生き物が大好きな子はザリガニやカブトムシの幼虫や成虫を見たくて、飼育ケースに飛んでいきます。一方で全く関心がない、嫌い、怖い!と近寄らない子もいます。教室では決まって、ボール転がしのおもちゃをひたすら繰り返す子もいますし、プラレールが何より大好きな男の子もいます。ジャングルジムやすべり台の固定遊具が大好きで、体を動かしていればご機嫌な子もいます。
 体を動かすことが苦手な子の親御さんは、もっと体を動かして遊べばいいのに~と思うようですし、みんなが青虫を見ている時に、誘ってもわが子だけ遊具に向かっていると、うちの子も青虫を見ればいいのに~と思いたくなるようです。その気持ちはよくわかりますが、乳幼児期の子どもは「自分のこと、自分の世界」が当たり前。大人の思うようにはならないものです。

 しかし、年齢によって遊び方は変わってきます。1歳半~2歳頃までは数分毎、時には数十秒で遊びが変わります。今、ボールコロコロの遊具で遊んでいたと思ったら、今度はミニカー、と思ったらすべり台~というように。「うちの子はどうしてこんなに落ち着きがないの? 集中力がなくて、大丈夫かしら・・」と心配する親御さんたちはたくさんいます。

 でも、2歳が近づく頃から少しずつ一つの遊びに没頭する子が出始めます。遊び込むことができるようになってくるようです。一つの遊びが長く続くようになったなあ~そんなふうに親御さんも少しずつ実感できるようになっていきます。年齢や発達の時期の特性に合わせて、また、個々の興味関心に合わせて遊びに付き合うことが、この時期とても大切なのです

「図鑑型」と「物語型」~子どもの興味関心のちがい

 さて、少し前になりますが、発達心理学者の元お茶の水女子大学教授内田伸子先生の講演があり、とても興味深いお話を伺うことができました。以下、紹介してみたいと思います。

  まず、生後10か月の赤ちゃんとお母さん100組に集まってもらい、プレイルームで遊んでもらったそうです。その遊んでいる最中に、いきなり犬型ロボット「アイボ」が入ってくるという設定です。そのロボットが入ってきた時に、100人の赤ちゃんたちの反応が二つに分かれたそうです。100名の内62名の子ども達はお母さんの顔を見上げたそうです。そして、38名の子どもはじっとアイボを見続けたそうです。これはどういうことかというと、お母さんを見た赤ちゃん達は、「ねえママ、あれは何?」「ママ、見て!」というように、お母さんに何かを尋ねる、お母さんはどう思っているの?…そのような思いに基づいた反応だといえます。しかし、お母さんを見ずにアイボを見続けた赤ちゃん達は、その見たこともないアイボというモノ、物体にくぎ付けだったということです。

面白いのは、この同じ100名の赤ちゃんを対象に、今度は1歳半になった時に同じ設定でアイボを登場させたところ、全く同じ62名がお母さんを見て、全く同じ38名がアイボを見続けたという結果だったそうです。お母さんを見た赤ちゃん達は、社会的参照といって、新奇な場面や事物に接した時にどう反応して良いか迷い、お母さんの表情を手がかりにして、行動を決定する子供達です。お母さんが「あら、ワンワンのロボットね。かわいいね。行ってみよう。」と明るい表情で赤ちゃんに応答すれば、赤ちゃんは安心してアイボに近寄るでしょうし、お母さんが「なにあれ?!」と驚きや怪訝な表情を示せば、赤ちゃんはそのアイボを警戒することになるというように、お母さんの表情や応答、つまり人を頼りに物事を捉えるのが、この赤ちゃん達のタイプ(62名)といえるようです。一方で、アイボを見続けた赤ちゃん達は、お母さんの反応に影響されず、自身が興味津々見つめてしまう、つまりモノへの興味が深いというタイプ(38名)といえるようで、人、モノに対する興味の差が、実験の結果に表れたというお話をしてくださいました。

実は、62名のうちの80%は女子、38名のうちの80%は男子だったそうです。つまり、人間関係に敏感なのはやはり女子の方が多く、モノの動きや因果的成り立ちに敏感なのは男子が多いという傾向があると内田先生はおっしゃっていました。内田先生は、女子に多い、人間関係に敏感な子供達はままごとや物語が好きな「物語型」。男子に多い、プレレールやカプラの積み木、砂場でダムに水を流して遊ぶことが好きな子供達は「図鑑型という風に分類できるとのことでした。特に、人に敏感な子供達は、言葉の面でも「おいしいね」「こんにちは」等のあいさつの言葉を早く獲得する一方で、モノの変化や動きに関心のある子供達は「電車」「ブブブー車」といったモノの名前の獲得が早いと話されていました。

難聴児にもある「図鑑型」と「物語型」

この話をきいて納得がいったのは、難聴児の手話言語獲得にも男子と女子では違いがあり、男子はモノの名前を多く獲得するタイプの子が比較的多く、女子にはあいさつことばやうごきを伴うことばを多く獲得するタイプの子が多いということです。
 上の2事例は、ある聾学校の女子(A児)と男子(B児)の手話の表出を保護者が記録したものですが、確かに、男の子と女の子では興味の持ち方や獲得する言葉に違いがみられます。
 因みにその後の育ちをみると、女の子(A児)は友達とおしゃべりしたり一緒にあそぶことが大好きで、きこえない仲間たちとのダンシングチームで活躍しているのに対して、男の子(B児)のほうは「魚が大好き」という子に育ち、将来”難聴バージョンさかなクン”をめざしています。

その子の個性を伸ばしたい

 話を元に戻すと、内田先生のお話から、子どもは、ある程度元々もって生まれた個々の特性があり、それが影響して言葉の発達も異なったり、好む遊びが違ったりすることがあるように思います。同じ親御さんから生まれる子どもであっても、兄弟一人一人違うように、個々の個性を捉えて、良い形で伸ばしてあげられるといいのだろうと思いました。一般に男子が「ことばが遅い」と言われるゆえんも、「図鑑型」に男子が多いということから考えると、人との関係の中でことばをやり取りして楽しむより、モノに向かってその成り立ちやしくみ、動きなどを楽しむことで、一人遊びが多くなることも関係するのだろうなと思います。

 こうした生まれつきもったタイプ、特性を知ることで、子どもの得意なものが探しやすくなるメリットがあるかもしれません。プラレールにくぎ付けの子は、つなげ方で変わるレールの形や電車が走るスピード、電車を連結した時と単独で走らせた時の違い、間隔をあけて走らせる面白さ等を楽しんでいるのでしょう。トンネルをくぐる時に一瞬電車が見えなくなる様子や坂を上がるときの様子、分岐点での車輪の動き、駅に停めようと操作するなど、電車の動きや変化が楽しくて仕方がないのだと思います。こうしたタイプの子には、そばにいてあげて「線路のつなぎ方を変えてみようか? どんな形がいいかな?」「坂ではなかなか前に進まないね」と会話したり、「長いまっすぐのレールをとって」「曲がった短いレールをとって」「二つに分かれる線路はどれかな?」など、丁寧な語りかけを工夫した会話を心がけるといいと思います。子ども一人ではできないことを手伝うことで、人と一緒に遊ぶ楽しさもたくさん知らせていかれるといいですね。

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