日本語の厳しい子どもの日記指導の方法

絵日記、日記・作文
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聾学校、難聴学級の別を問わず、十分に日本語の力がつかないままに小学生になる子どもは少なくありません。知的な面での遅れも特にないし、手話で日常的な会話は出来るのに、日本語がさっぱりという子たちです。
 今回事例として取り上げる日記を書いた子どもは、裸耳聴力両耳100dB補聴器装用の小1児童です。母親は手話が使えますが父親は音声のみの会話。両親とも仕事に追われ聾学校幼稚部は休みがちでした。日本語が十分に身につかないままに聾学校小学部に入学。聾学校経験の浅い担任教師から「この子の日本語はどう指導すればよいのでしょう?」という訴え。そこで、子どもが書いてきた日記を見せてもらいました。それが上図の日記です。1年2学期始め頃のクラスの誕生会で司会をしたときのものです。今回は、この日記をどのように指導すればよいか書いてみたいと思います。

児童の日記、まず、褒めよう!

  何はともあれ、日記の指導で大事なことは、まず、子ども書いてきた文を”褒める!“ことです。一生懸命書いてきた子どもの日記です。どんな日記でも必ず良い点があるものです。そこを見つけて褒めましょう。褒めることで子どもは励まされ、日記を書こうという気持ちが湧いてきます。

 といっても、上の日記をみて「こんなに誤りの多い文のどこを褒めればいいの?」と思われる方も多いのではないでしょうか? たしかに、誤りの数は多いです。16の文に対して17か所の誤り。1つ文を書けば必ず誤りが1つあるといった感じです。でも、読んでみて、私は「この子、すごいなあ」と思いました。なにがすごいのでしょうか? 

 子どもは小学生になって初めて自力で日記を書くわけですが、その基本は、まず、時系列にそって出来事を「~しました。~しました」と、つなげて書けることです。その点、この児童(Aさん)は、その基本が出来ています。クラスの誕生会でケーキ作りをしたことから始まって、おわりの挨拶の話をするまでの90分くらいの間の出来事について、順番に書けているからです。「誕生会の始まりから終わりまでちゃんと順番にやったことが書けているね。よく覚えていたね。すごいね!」

 そのうえで、直してほしいことを子どもに伝えるわけですが、ここで直してほしいことを「欲張らないこと」です。2つか3つ、せいぜい4つくらいまでにしておきましょう。できれば、子どもと直接、対話しながら指導をするのがベスト。日記を書いたA君の日本語のレベルはかなり厳しいレベルなので、短時間でも直接指導が必要です。もしそれが難しい場合はコメントを書き、コメントを家の方にみてもらいましょう。家で指導していただけるかどうかはそれぞれの家庭の事情もあるので期待はできませんが、保護者には事前に保護者会等の折に日記指導の意義・方法等について説明しておきます。そのうえで保護者には、「よいところが必ずあるので、そこを一つでも二つでも見つけて褒めてほしい」と協力を依頼しておきます。

個別の指導を通して

 さて、本人が書きたかったことを聴き、確認していくと上のような文になりました。実際にはこのように全文を一気に書き直すわけではありませんが、今回は一応全文書き直しました。Aさん自身の発言には「 」もつけてみました。名詞や動詞の誤りのうち、その場で訂正すれば本人も確認できるものは、その場で直しました。例えば・・

★名詞(音韻の誤り)・・・「ゲーキ」⇒「ケーキ」、「ころがドッジ」⇒「ころがしドッジ」、「かくれぽ」⇒「かくれんぼ」など。

☆動詞の誤り・・・これについては要検討。音韻の誤りである「はめじました」⇒「はじめました」「うたのました」⇒「うたいました」などはその場で訂正できます。また、手話を日本語に1対1で直訳した誤りもその場で使い方の訂正ができるのではと思います。例えば以下のところです。

⑦「なに、すき?」(手話の直訳) ⇒ 日本語では「なに やりたい?」でしょう。
⑩「やる、むり、みつけました」(手話の直訳) ⇒ これは「やるのは むりと わかりました。」でしょう。
 しかし、助詞と合わせて指導が必要な動詞については、並行して文法指導を行ってから訂正します。誤りだけをその場で訂正しても、なぜ間違ったのか、本人に意味がわかっていないとまた同じ誤りを繰り返すからです。

文法指導を並行して

 Aさんが書いた日記をみると、上表のように、「だれ・なにが~しました。~です」というパターンか、「(だれが)~を~しました。」のパターンになっていることがわかります(日記なので主語は省略されていますが)。日記は、自分のやったこと=行為・行動について書いたものですから「私が~をしました。」という形になるのは当たり前です。

 日本語には必須成分をもった基本の文型(下図)が5つありますが、基本文型でいうとⅠとⅡだけでこの日記は書かれていることがわかります(上表)。ということは言い方を変えると、基本文型ⅠとⅡをしっかりと身につければ、日記の基本である「したこと日記」は書けるということになります。このような基本文型を使ってきちんと文が書けるようになることは、初歩の段階の指導としてはとても大切なことなので、まず、「~が+動詞・形容詞」(第Ⅰ文型)と「~が~を+動詞」(第Ⅱ文型)を指導します。この文型の中で使われている助詞「が」「を」の指導方法については、前回「幼児に助詞を教える方法」で紹介しましたが、「助詞カード」や「助詞手話記号」といった視覚教材を使うとわかりやすいです。まずは「~が+動詞」「~が~を+動詞」に出てくる助詞「が」と「を」の使い方をマスターしましょう。そのうえで、日記の中に出ている助詞「が」と「を」を使った文の指導をします。

日記の中での「~が+動詞・形容詞」「~が~を+動詞」の指導

「~が+動詞・形容詞」の文(第Ⅰ文型)の指導

例えば⑪の文「悔しかったです」の文をとりあげます。
 T「悔しかったんだね。悔しかったのはだれなの?」A子「わたし」
 T 「じゃあ、この文は『 悔しかったです』なんだね。日記だから「私」だってことはわかっているから『私は』は省いたんだね。じゃあ最後の『楽しかったです』は?』・・こんな感じで省略されている主語を確認しながら直していきます。

「~が~を+動詞」の文(第Ⅱ文型)の指導

 ①「誕生会 しました」の文。T「何を したの?」C「誕生会を しました。」T「そうなんだ。誕生会をしたんだね。じゃあ誕生会をしたのは誰なの?」C「私たち」 T「じゃあ詳しく言うと、「私たち 誕生会 しました、なんだね?」・・。このように、確認していきます。

助詞「で」「に」「と」を使う文の指導

  今回のAさんの日記をみると、助詞「で」の誤りの文がひとつあります。⑫「ゲーキ 食べました」です。動詞「食べました」に必要な助詞は「が」と「を」ですから、正しい文は「(私たち) ケーキ 食べました。」ですね。
 もう一つ、本来なら③「いちごとみかん(手段・方法の「で」)(ケーキ)作りました」と使うべきところを「いちごとみかん 作りました」と間違った使い方をしています。
 助詞「で」の使い方には4つの使い方がありますが、そうした使い方を指導したのちであれば、日記の中での「で」の誤りの指導ができます。 
 またさらに、「で」の他の使い方として、例えば冒頭の文①「誕生会 しました」は「クラス(範囲の「で」) 誕生会 しました」などと、文を詳しくするために「で」を使った語句を補うといった指導できると思います。

まとめ

 日記を書くためには、語彙力、文法力をつけなければなりません。語彙が少ないとワンパターンの文になってしまいます。文法力がないと書きたいことを適切に表現できません。さらに、生活や自分自身を深くみつめる力を育てるには、日記の題材を選ぶ観点の指導や日記にタイトルをつけてみるとか、五感を使って(例「どんな手触り?」「どんなにおい?」「どんな味?」など)書いたらどうなるかとか、オノマトペ(例「ふわふわした」「キラキラした」など)を使ってみるとか、内容についてさらに子どもに問いかけ、日記の中身を深めることが大切だと思います。

参考になる記事や書籍

☆「幼児に助詞を教える方法~『助詞カード』であそぼう」https://nanchosien.blog/how-to-master-particle/#particle1

☆「YouTube日本語講座第17回『質問文の作り方&助詞「が・を」の使い方」https://nanchosien.blog/questionparticle/#particleposition-ga-o

★『きこえない子のための新・日本語チャレンジ』難聴児支援教材研究会発行 1600円https://nanchosien.blog/challenge/#challenge

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