高学年児童の日記指導~日記をどう長く書けるように指導したか?(難聴学級での実践から)

日記・作文
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 高学年になっても「昨日、~をしました。~をしました。・・楽しかったです。」といったワンパターンで日記を書いてくる難聴児は決して少なくありません。もちろん、それは子ども自身の問題と言うより、指導する側の問題が大きいわけですが、では、日記指導の方法について、教師は研修したり、先輩教師から教わった経験があるのかといったら、それもほぼゼロというのが実情でしょう。では、このような児童に対してどう指導すればよいのでしょうか?
 以下紹介する実践は、初めて難聴学級を担当することになった教師が、たまたま日本語文法指導を実践している同じ地域の難聴学級担任と出会い、そこで実践されていた「文を詳しくする方法=大きな名詞の作り方」を活用して、子どもに文を長くする面白さ・楽しさを実感させ、その結果として児童が日記を長く書いてくるようになった実践事例を紹介します。

最初の指導

ことばのネットワークづくり

 A児は小学校高学年ですが、日記は「昨日、野球をしました。楽しかったです。」(20字)というワンパターンの文の連続。語彙力も十分でないため、決まりきったことしか書けません。そこでまず取り組んだのは『ことばのネットワークづくり』(難聴児支援教材研究会発行)。難聴児は知っていることばが頭の中で関連性なくバラバラになっていることが多く、そのため「ノート、鉛筆、消しゴム、筆箱」といった一つ一つのものの名前(基礎語)は知っていても、それらをまとめたことばである「文房具」という上位概念を知らないことが少なくありません(きこえる子は「聞きかじったり」「小耳にはさんだりして」カテゴリーをもったことばを増やしますが(「偶発学習」)、きこえない子は補聴器や人工内耳をしていてもそれは困難です)。そこで視覚も活用して、それらのことば同士の関係に気づき、仲間(カテゴリー)としてまとめていく活動をすることが効果的です

5W1Hを使った文の基本の指導

 上記のような学習と並行してB先生は、文を書く時の基本である5W1Hを用いた「いつ、だれ、どこ、なに、どうする」といった疑問詞を使って文を詳しく書く指導をしました。上図は観点を示した用紙で「いつ、どこで、だれが、なにをして、どうだった、思ったこと」など日記を書く時のポイントが示されています。他者に伝える上で必要な要素に着目して文を書くように指導したわけです。

名詞句づくりの指導

 そして次に行った指導は、どんな~」という説明(名詞修飾)を加えることによって文を詳しくする指導です。前項の図は「お父さんが、ルンバ(注・掃除機)を 買いました」(「だれが なにを どうする」)という基本文型の文ですが、これにまず「いつ、どこ」などの詳しくする要素を加えて長くします。ここまではB先生が前項で行った5W1Hを使って文を作る指導です。例文では「日曜日の夜(いつ)、お父さんが(だれ) こじまで(どこ) ルンバを(なに) 買いました(どうする)」という文です。これをさらに長くするために、文で使われている名詞「お父さん」「こじま」「ルンバ」を「どんな お父さん」「どんな こじま」「どんな ルンバ」というふうに「名詞句」を作ることでさらに長くする指導です。
 こうした指導の結果、A児は少しずつ長い文が書けるようになり、先日、修学旅行に行った時のことを以下のように書いてきました。 

初めて書いた長い作文

「11月22日から11月23日、1泊2日の修学旅行に行きました。
〇〇島と××島は、フェリーで行きました。
初めての〇〇島は、フェリーで行きました。
2班みんなでフェリーの甲板に出ました。
甲板から青い空、緑の山、きれいな海が見えました。
次は、家族で行って、ちがう場所にも行きたいです。」
(130字)

 これまでの30字程度の短い文しか書かなかったA児が130字の文を書いてきたわけです。B先生は「とても感動した。これまでの指導が間違っていなかったことを実感した」と思われたそうです。

さらに高みをめざして

 B児の書いた修学旅行の日記は、以下のように4つの段落で構成されています。

1段落(起)いつ・なに11月22日から11月23日、1泊2日の修学旅行に 行きました。
2段落(承)どこ・だれ〇〇島と〇〇村に、〇小の6年生と 行きました。
         初めての〇〇島は、フェリーで 行きました。
3段落(転)2班みんなで フェリーの甲板に 出ました。
4段落(結)次は、家族で 行って、ちがう場所にも 行きたいです。

 全体の文は短くとも一応4段落構成になっています。あとは、それぞれの段落をさらに肉付けして詳しくするとよいのではないでしょうか。ここからは文法指導から本来の日記・作文の指導の領域に入ってきます。

 例えば甲板から見た空と山と海の情景をもう少し詳しく描写するとどういう表現になるでしょうか?青い空は「どこまでも続く青い空」とか「雲ひとつない青い空」、「ところどころすじ雲が浮かぶ青い空」など描写できるかもしれません。「きれいな海」は「透き通ったきれいな海」とか「時々魚たちがはねるきれいな海」とかよく観察すれば何か見えるかもしれません。「緑の山」は、「なだらかにつながった遠くの緑の山」などと表現できるかもしれません。 

 また、目(視覚)で観察したことだけでなく、その時の肌をなでる風の様子(触覚聴覚)、海の潮風の匂い(嗅覚)など、五感でとらえたその時の様子なども観察できるかもしれません。さらに、甲板での2班の友達の様子はどうだったでしょう? 会話はききとれなかったかもしれませんが、友達の表情からその時の友達の楽しそうな様子、はしゃいだ様子は想像できたでしょうか? さらに、友達や先生とは何か会話をしたのでしょうか? 甲板での自分の気持ちや思ったこと、周りの様子など、詳しく観察する目を育てそのときの様子を詳しく書けるようになると、さらに文も長くなると思います。

 またこの日記を書いたあと、タイトルをつけるとどんなタイトルになるでしょうか? そんなことを考えるのも文の主題(テーマ)をはっきりさせる練習になるのではと思います。

 以上、文法指導の手法を応用して日記・作文の指導を実践された難聴学級担任のB先生の実践を紹介しました。「わかること!楽しいこと!」これが子どもが伸びていくための最大のポイントです。A児のこれからの成長が楽しみです。

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