この検査は、聾学校幼稚部や小学部、難聴学級児童の語彙力を測定するときに比較的よく用いられる検査です。問題に絵が用いられており、それらの絵が日本語でなんというのか、子どもに絵を指差しさせるだけの検査なので、難聴児であっても着席して検査に乗れる子であれば幼児から実施できます。
ただ、検査で問う単語(名詞や動詞)が日常的に頻度多く使う単語ではないために、年少・年中さんでは問題の図版1,2まででギブアップ、年長さんでも図版3,4あたりまででその先はもう無理ということが多いです。所要時間15分程度。
この点、J.coss(日本語理解テスト)の問題1「名詞」、問題2「形容詞」、問題3「動詞」のほうは、聴児・年少さんが獲得するレベルに対応しているので問題のレベルは易しい(生活の中で頻度多く出現する語なので難聴児も獲得していることが多い)です。
基礎語と上位概念語、名詞と動詞の観点から
これだけで検査を終わったのではもったいない。もう少し有効活用できないものでしょうか。そこで、私はもう少しこの検査を広げたかたちで使うようにしています。具体的には、各図版にある絵を使って、きこえない子でも知っている可能性の高い語、あるいは知っておいてほしい語を補足的に加えて尋ねてみます。
例えば、図版1には「三輪車」の絵があって、正式な検査としては、ここで「漕ぐ」という動詞と「乗物」という三輪車の上位概念にあたる名称を尋ねます。「乗物」という上位概念名を知っているかどうか、また、「漕ぐ」という動詞を知っているかどうかは、難聴児の苦手な上位概念と動詞なので大切な設問です。ただ、難聴児の場合は、より基本的な語である「さんりんしゃ」(基礎語)を知っているかどうか補足で尋ねるとよいです。難聴幼児でもほとんどの子は、三輪車そのものは見たことや乗ったことがあっても、「さんりんしゃ」という名称(基礎語)を知らない子は意外と多いです。
同様に、図版1では、①「犬」の絵で「動物」(上位概念)と「吠える」(動詞)を、②「バナナ」の絵では「果物」(上位概念)を、③「靴」の絵では、「靴」(基礎語)を正式検査では尋ねることになっていますが、もうひとつ突っ込んで、①では「犬」(基礎語)、②では「バナナ」(基礎語)「食べる」(動詞)、③では「履く」(動詞)などを補足で尋ねてもよいと思います。
以下、同様に、各図版ごとに正式検査だけでなく、以下のような補足質問を加えるとよいと思います。
図版2・・・①チューリップ→「つぼみ」(正式)、プラス「チューリップ」(基礎語補足)、「咲く」(動詞補足)、「花」(上位概念補足)
②カナリヤ→「羽」(正式)、「鳴く」(正式)、「飛ぶ」(正式)、プラス「鳥」(上位概念補足)、
③金魚→なし(正式)、プラス「金魚」(基礎語補足)、「魚」(上位概念補足)
④ごはんと箸→「食事」(正式)、「コメ」(正式)、プラス「ごはん」(基礎語補足)、「食べる」(動詞)
(以下略)
このような観点から、図版3以下も考えていくことで、きこえない子にとってより有効な検査として使えると思います。
そして、単に「語彙年齢」や「評価点」だけを出して、「厳しいね」という評価だけに終わらないよう、どのように①基礎語と上位概念を習得していくのか、②名詞と動詞を習得していくのかという観点から、語彙の拡充の支援・指導を考えていくとよいと思います。
参考になる記事・評価用紙
★『絵画語彙発達検査』(3歳0か月~12歳3か月) 上野一彦ほか 日本文化科学社 https://www.nichibun.co.jp/seek/kensa/pvt_r.html
☆筆者が作成・使用している絵画語彙検査の評価用紙