聾学校・年長でみておきたい力(1)~「自己中心性」から「脱中心化」への発達をみてみよう!

生活言語と学習言語
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生活言語と学習言語

  幼児期は生活言語の段階と言われています。生活言語とは、分かり易く、日常生活の中でコミュニケーションに使われている言語(手話も含む)と一応考えておきます(専門的な定義はここでは置いておきます)。そのうえで、「今、ここ」での現実の会話場面を想定してみましょう。
 会話の時に使うことば、とくに日本語は、お互いに話題や文脈が共有されていれば、単語だけでも通じ合える言語(開放文法の言語)です。その点、いちいち主語・述語が整った文で話さないといけない英語(閉鎖文法)とは違います。 
  「どうする?」「うん」「ほしいの?」「ほしい」「じゃ、買う?」「買う」・・という具合に。
 これだけのやりとりをここに引用して文章化したとしても、第三者にはなんのことかよくわかりません。でも、実際の二人のあいだではこれで十分通じあえているわけです。実物が目の前にあったり、相手の表情やしぐさ、場の雰囲気など言語以外の情報(非言語情報)などの利用、さらに、わからないときには相手に尋ねることもできますから、日常生活場面で使う言語(生活言語)は、多少助詞など抜けた不完全な文でもやりとりが成立するのが特徴です。

 しかし、学習言語はそうはいきません。学習言語の典型は、教科書に書かれているような文章ですが、こうした文を理解するためには、相手の表情やしぐさなどの非言語情報を使うことができません。必要な情報は、全てことばによって表現されることが求められます。「いつ、どこ、だれ、なに、どのように、なぜ」それをしたのかといった情報はもちろん、文法的にも正しく表現することが不可欠です。非言語情報に頼ることができないからです。

 もう一つ大事なことは、こういう書き方をしたら相手にわかるか、また相手がどう思うかなども自分で想像しながら書くことが求められます。読み手への想像力です。発達的にまだ自分中心の発想の段階にある幼児には、そこまで想像することはとても難しいことです。

 では、こうした、客観的思考が求められる学習言語の世界に入っていくためには、幼児期にどんな力をつけていくことが必要でしょうか? その力の育ちをみるのが幼児期での大事なアセスメントの役割です。

太田ステージ・St.Ⅳ「保存の概念」

 「生活言語」段階にある幼児の認知発達の特徴は「自己中心性」(Piaget.J)です。幼児は、自分の立場からものごとを判断し、まだ、他者の視点(自分以外の別の視点)から物事をみることができません。ものごとの見方が主観的・自分中心で、まだ客観的・他者の視点で見ることができないのです。この発達をみる検査の一つが「太田ステージ」の中にある検査項目、「ステージⅣ・保存の概念」です。

この検査の手順は上図をご覧ください。幼児は、上図の③で「どっちが多い?」と尋ねると、「黒いほうが多い」と応えることが多いです。それは、まだ客観的な見方ができず、感覚が広がったことで「多くなった」と考える子どもですが、まだものごとを客観的にみる力が十分に育っていないために、見かけにごまかされてしまうからです。

心の理論・「サリーとアンの課題」

  二つ目の検査は、このHPの「心の理論」の記事でも触れましたが、「サリーとアンの課題」です。やり方は添付ファイルを見て下さい。もし、図の手順④で、アンパンマンの思っていることを想像できれば、子どもは「水玉模様の箱を開けると思う」と応えるはずですが、難聴児にはこれがけっこう難しいです。正解できれば子どもは自己中心性の段階から抜け出して脱中心化の段階にきていると考えられますが、さて、難聴児の結果は、一般的に聴児よりもかなり低いと言われています。実際、図をみてわかるように、全国的な調査でも筆者(木島)が過去にやった結果をみても正答率は高くありません。「他者の立場」に立って物事を考えることができないということは、視点(立場)の変換が必要な受動文や授受文、使役文の理解の苦手さにもつながっているように思います

幼児期にどんな活動に取り組めばよいか?

 「保存の概念」も「心の理論」も、結局のところ、ものごとを自分以外の別の視点から考えることができるということだと思います。つまり「自己中心性」から抜け出て「脱中心化」という発達を遂げていくということです。では、そうした発達を促すためには、どんなことをすればよいのでしょうか? 

 上図に例をあげたように、家族の中で十分に「通じ合える」コミを保障すると同時に、自他の「心」に焦点をあてた会話をすることが必要と思います。「パパはどういう意見?」「お姉ちゃんはどう感じているのかな?等々。
 また、絵日記の中で、自他の気持ちを考えさせるテーマを取り上げるのもよいでしょう。そして、手紙を書く。田舎にいるおばあちゃんは喜んでくれるかな? 手紙は、受け取る相手を想像して書くよさがあります。
 さらに、絵本を読んだあとの再現あそび。絵本に出てくる登場人物になりきってあそぶのは、その登場人物への想像力を高めます。同様にままごとでお母さんやお父さんになりきってあそぶのもそうです。
 教室での活動であれば、例えば給食の時に牛乳をこぼした場面を絵にして、周りの友達や先生が何というか吹き出しを描いてそこにどんな言葉が入るか想像してみるのも面白いかもしれません。また、4コマ漫画を描いて、そこに登場人物のセリフを入れるのも面白そうです。

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