「カレンダーワーク」で文法指導に取り組んでみた!~沖縄ろう学校小学部の取り組み

日本語文法指導
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はじめに~なぜ、「カレンダーワーク」で文法指導?

  「カレンダーワーク」は、一日の始まりの時間帯に行なう短時間の学級活動で、各児童がその日一日を自ら主体的に活動できるよう、学校生活の流れを見通すために行ないます。この時間をうまく使って、沖縄ろう学校では、きこえない子の苦手な文法~基本な動詞の活用(時制・肯定否定など)助詞の指導に取り組んでいます。なぜ、「カレンダーワーク」を活用することを考えたのでしょうか?

 動詞の活用と助詞は、必要かつ大切な文法事項でありながら、①動詞の活用の複雑さ(下図参照)、②「が、を、に、で」などそれだけを取り出しても意味・用法がわからない助詞など、日本語を自然獲得しにくいきこえない子にとっては、ハードルの高い事柄です。

 一方で、日本語の文法を指導する教員にとっても、①自らがそのような指導を受けた経験がない(ほとんどの人は日本語を日々の生活の中で自然獲得してきた)、②聴覚障害教育の歴史の中でも文法を意図的に指導して成功した実践が少ない(口話法時代の1950~60年頃に国文法を使って指導した聾学校の実践がありますが、それはきこえない子にとって無理な方法でした)などの理由で、子どもにとっても大人(教員)にとっても、文法学習・文法指導は必要なのになかなか取り組めない、というのが現状です。

 しかし、今回紹介する沖縄ろう学校の「カレンダーワーク」を通しての取り組みは、この両面を止揚した取り組みと言ってよいと思います。子どもにとっても大人にとっても取り組む内容に無理がなく、短時間でも繰り返すことで定着が図れ、指導内容を徐々にレベルアップできる、そうしたメリットがあるように思います。以下、沖縄ろう学校の取り組みを紹介したいと思います。

小学部における動詞や助詞の活用力定着を図った取り組みー「カレンダーワーク」を活用した系統的発展的な指導ー

はじめに

 本校小学部では、全学級で「カレンダーワーク」として1日のスケジュール確認を朝の会の中で行なっています。その日1日の学習内容を2〜4語文程度の短文で示し、児童が見通しを持ち、主体的に1日の学習に臨めるようになることをねらっています。その中で、各学年の実態に応じた動詞の学習や正しい助詞を選択する学習を取り入れ、動詞や助詞の活用方法の定着を図っています。また、朝の会で確認した1日の流れは、児童が記入する連絡帳とも連動させ、正しい文を書く力につなげることをねらい、取り組んでいます。

 動詞の活用や助詞の学習は自立活動の時間を中心に指導を行なっていますが、自立活動の時間における指導のみでは動詞や助詞の定着を図ることは難しい。そのため、朝の会や帰りの会、連絡帳の記入などの活動の中で毎日繰り返し指導することで、自立活動の中で学習した内容の定着を図るようにしています。

 カレンダーワークの中で教師が提示する短文は、児童の実態に合わせて文の長さを変えたり、取り上げる品詞の種類を変えたりするなど、低学年の学習を中学年、高学年へと積み上げながら系統立てた指導となるように教師間でも情報共有を行いながら取り組みを進めています。
 今回は低学年、中学年、高学年、重複学級での取り組みから「カレンダーワーク」の中で動詞の活用学習や助詞の学習をどのように系統的発展的に積み上げているのかを紹介します。

指導の実際

低学年(小学部1年)の取り組み

動詞活用の指導

 本校では、1年の1学期から動詞活用や助詞の活用学習を自立活動の時間を中心に行なっています。カレンダーワークの中でも、朝の会で動詞の原形を現在形に直したり(図1)、帰りの会で動詞の過去形を短い形や長い形に直したりする学習(図2)を通して、動詞活用の定着を図っています。
 カレンダーワークの導入当初、提示する動詞は日常生活の中で使用頻度の高い動詞を選択し、文章の中で使うようにしてきました。毎日繰り返す中で児童が動詞を覚えてきたら、少しずつ新しい動詞を導入し、児童が自分で使える動詞の数を増やせるようにしています。また、動詞の語幹は赤い枠で示し(図ー1,図ー2黄緑色・動詞カード参照)、動詞単語の中で変化する部分(語尾)と変化しない部分(語幹)を児童が理解しやすいように工夫しています。
 このような指導を繰り返す中で、使用頻度の高い動詞については、児童が自分で「行く→行きました→行った」のように動詞の形を変化させることができるようになってきました

助詞の指導

 助詞の学習については、助詞手話記号(図-4参照)を使い、文脈に合う助詞を選択したり考えたりできるように指導しています。助詞手話記号を使って名詞と動詞をつなぐ助詞を確認することで、普段の会話の中でも児童が「トイレに行く」のように正しい助詞を選択したり、文章に合う助詞手話記号を表出したりする姿が見られるようになってきました

連絡帳

 また、児童が記入する連絡帳にも1日の流れを記入する欄を設定し、朝の会で確認したカレンダーワークの短文を見ながら、児童自ら動詞の原形を過去形に書き換えられるように指導しています(図ー3)。
 導入当初は、カレンダーワークの短文を書き写していましたが、児童が慣れてきたら動詞の過去形は示さず、児童が自分で動詞の原形を過去形に書き換える取り組みに移行してきました。

中学年(小学部3年)の取り組み

助詞の指導

 中学年では、基本的に情報と述部の間に入る助詞を空欄で示し、教師が考えた短文に当てはまる助詞を児童に考えてもらい、読み合わせをしながら正しい助詞を確認しています。児童は助詞手話記号の一覧表(図4)を見ながら、どの助詞を当てはめたらいいのかを自ら考えようとすることが増えてきました。当てはまる助詞を間違えた場合も、助詞手話記号の一覧表を見ながら、なぜ間違っているのか、どの助詞が文脈に合うのかを教師と一緒に考えることで正しい助詞を選択できるように指導しています。  

動詞の指導

 動詞については、示されたそれぞれの動詞が3つのグループのうち、どちらのグループに入るのか見分ける学習を加えています(図ー5)。この学習を通して、児童は動詞の末尾が「る」の動詞は1グループか2グループになること、「する」は3グループになること、末尾が「る」ではない動詞は1グループになることを理解できるようになってきました。末尾が「る」になる動詞の場合、動詞を「ます形」に直してみて、末尾が変化する場合は1グループ、末尾が消える場合は2グループというように見分けています。(例:「集まる」は「集まります」なので1グループ、「立てる」は「立てます」なので2グループになる等。)
 

連絡帳

 また、連絡帳に1日の流れを記載する学習では、児童が自分で動詞をタ形(過去形)に書き換えています。児童は、活用の形がわからない場合、テ形・タ形の活用表(図ー6)を確認しながら自分で活用の形を見つけ、動詞を書き換えることができることができるようになってきました(図ー7)。

高学年(小学部5年)の取り組み

 高学年では、すべての助詞を省き、どんな助詞が入るのかを児童同士で話し合いながら教師の提示した文を完成させる流れで動詞と助詞の活用学習に取り組んでいます。
 教師が示す一文も名詞句や副詞などを取り入れたり、複合動詞を選んで提示したりするなど、低学年から積み上げてきた動詞や助詞の学習を応用・発展させた内容になっている(図ー8)。
 子どもたちは単語と単語の間にどの助詞が入るのか話し合う中で、助詞の用法について理解を深め、そのことが日記などの文章を書く活動で正しい助詞を選択することにつながっていると感じます(図ー9)。
 また、その日の学習内容に合わせて、文末の動詞の活用が個々の児童によって異なる場面も意図的に設定しています(例えば、〇〇テストで100点を取れた/取れなかった、パターンでの動詞活用から日常生活に即した動詞の活用学習に繋げることで、より学習内容を般化させることを意識して指導にあたっている。

重複学級の取り組み

 重複学級では、児童の実態に応じながら2~3語文での表示を行っています。朝の会で一日の流れを確認した後、各授業が終わると「する」のカードを「した」の表示に裏返しながら、活動が終わると「する→した」に変化することをくり返し確認している(図ー10)。
 児童も意味を理解し、日直の児童が授業後に動詞カードを裏返しながら「した」と手話に音声を併用しながら表現する様子も見られるようになりました。
 また、その日の活動の一部を写真に撮り、絵日記のように写真を見ながら2~3語文を考える活動にも取り組むことで、単語のみではなく、助詞を使った2~3語文の表出も少しずつ見られるようになってきました(図ー11)。

まとめ

 学部全体として取り組んでいる「カレンダーワーク」の取り組みですが、各学年の児童の実態に応じて活動内容を設定することで、段階的な日本語文法指導に取り組むことができるようになってきました
 また、全学級で取り組むことで、職員間でも文法指導の取り組み方をお互いに共有したり、次の学年を見据えてどのような手立てを加えていけば良いのかという系統的な指導の在り方についても話し合ったりできるようになってきました。毎日の短時間での取り組みですが、毎日続けることで子どもたちの日本語力の向上に繋がっていると同時に、継続することの大切さを感じています。今後も学部全体で少しずつ実践を積み重ねていくことで、系統的発展的に子どもたちの日本語を読んだり書いたりする力を着実に育てていきたいと思います。

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