人間関係を楽しめる子どもに育てるために

難聴児の心の発達
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「ストレスを生むのも、ストレスを解消するのも人間関係の中である。だから、人間は深い人間関係の中で安らぐというのがいい。仲間とコミュニケーションするのが安らぎだというのがいい。だから、おとなだって一人で酒を飲むのはよくない。気の合った仲間と一緒がいい。
 
人間関係を楽しむような練習が、子どもの頃からできていない子どもほど攻撃的になる。子どもの保育や教育に携わるような仕事の人が孤独であってはいけない。子どもを本当に受け入れるためには、自分が人から受け入れられていなければならない。 
 
少年の心の成長のためには、人間関係の質よりまず量が大切である。現代っ子は、少年時代に人間関係の量が足りない。量より質が大切になるのは、思春期になってからである。人間は深い人間関係の中で安らぐというのがよい。子どもの時に一人でいるのがホッとするようではいけない。本当は大人だって。・・」 (佐々木正美)

人間関係の体験の不足

 上の文章は、2017年に亡くなった児童精神科医佐々木正美先生の「ことばの森」の中からの抜粋です。最近の社会現象の一つとして取り上げられていることの中に、不登校やひきこもりの問題があります。そしてそれはきこえる子たちだけでなく、難聴児にとっても例外ではありません。不登校の原因として語られるのは、「友達からのいじめにあった」「先生にいやなことを言われた」といったことが多いようですが、それだけでは語れない、さらに深い問題が背景にあるケースが多いとも言われています。その要因としてとりあげられるのが「人間関係の体験の不足」です。

 学校に行きたくても行かれない子どもの心の内をきいてみると、人間関係にひどく緊張したり、逃げ出したくなるような違和感や圧迫感を感じるという理由をあげる子ども達がけっこういるそうです。学校が、勉強を学ぶ場だけではなく、友達と遊び、語り合い、友達の考えに触れながら成長していく場としての意義が大きいことを考えると、級友の中で安らげない、くつろげない、友だち関係が心の負担になることは、どんなにか辛く苦しいことでしょうか。

 

人間関係の体験の場

 幼稚園、保育園、そして学校という場所が、子ども達にとって、遊ぶ楽しさ、学ぶ楽しさ、友達とかかわる楽しさを十分に味わえるような心地良い場所になっているかどうかを見直すことももちろん大切なことなのですが、あわせて、本人がどれだけこうした仲間が集まる中で、多少のくやしさや葛藤があってもそれを乗り越えるだけのたくましさや強さがあるかどうかも見直してみる必要があるかもしれません。
 そして、こうした現代の子ども達が心を病む原因をひも解いて行った先に、幼い頃から、たくさん人間関係を体験することの大切さが、改めて見直されてくるように思います。

 しかし、実際にはどうでしょうか。子ども同士の関係の中で、喧嘩して、くやしい思いをしたり、あきらめたり、我慢したりする、相手の気持ちをうかがい、友達の悲しみや喜びに共感する、互いに話し合い相談しながら遊びを作り上げたり、ルールを変更したりして遊び込む・・・こうした子ども同士の関係性の中で育ち合う体験の場は、どれだけ保障されているでしょうか。幼稚園や保育園に通っていれば、十分に遊べているかというと、その保育のカリキュラムや内容によっては、こうした体験の機会が少ない面も目につきます。また、難聴児であれば、先生や友だちとコミュニケーションがちゃんと成り立っているのかといった問題もあります。

人間関係を学ぶ場としての家庭

 それでは、家庭ではどうでしょう? ゲームやユーチューブ漬けあるいは習い事に忙しくて遊ぶ暇がない生活の実態は、子ども達が人間関係を学ぶ体験の不足に繋がっているのではないでしょうか。そして、親戚とか近隣地域の人々との関係性も、昔とは異なり、希薄になってきていることもあげられるでしょう。人付き合いが面倒くさくわずらわしいと思う私たち大人の生活がそのまま子どもが育つ人間関係の体験不足の土壌を作り上げていることに直結しているようにも思います。

 今の時代、毎日の生活の中に、自然に人間関係を学ぶ機会が与えられるわけではないことを自覚しつつ、いかに、子どもが、子ども同士、様々な大人に関わりながら人間関係を学ぶチャンスを作っていくかを意識することが必要な時代になってきているのかもしれません。

 私事になりますが、私が子ども時代を過ごした昭和の頃はまだスマホもタブレットもない時代でした。外遊びもたくさんしましたが、家の中では、大人とも、子ども同士でもかるたとか将棋とかトランプをよくしました。今風に言えばボードゲームです。とくに、トランプは、定番の「ババ抜き」「7ならべ」「神経衰弱」「ダウト(うそつき)」などといった遊びの中で記憶力や集中力、ときに敏捷性が磨かれ、駆け引きをしたり、遊び方によっては数の認識も育てることができたりするメリットもあったと思います。そして、こうしたゲームの何よりのメリットは家族や仲間と語り合い、関わり合いながら楽しみ、遊べる点ではないでしょうか。今の時代、こうした遊びより、対画面というゲームやユーチューブが子ども達の遊びの主流になっていることは、ちょっと残念なことだと思います。それこそ、子どもが人間関係を学ぶ体験の場の一つに、トランプやかるた、人生ゲームなどのボードゲームを積極的に取り入れていってはどうでしょうか。

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