ことばの力を伸ばしたい。そのためには子どもと丁寧なやりとり(コミュニケーション)する時間が必要。とはいっても仕事をしているし、なかなかじっくり関わる時間がとれない。ではどんな工夫をすればよいのでしょう? ここでは、共働きの親御さんが、お子さんとの関りの時間的な少なさを補うために、どんなかかわり方を心掛けたらよいか? その方法について、インリアル・アプローチという方法で整理してみました。
インリアル・アプローチってなに?
子どもとのよりよいコミュニケーションをとることで、ことばを育てようとする方法に「インリアル・アプローチ」という方法があります。1974年に米国コロラド大学の二人の先生によって言葉に遅れのある子への言語指導法のひとつとして開発されました。その特徴は、子どもとのコミュニケーションの中で、関わり方を改善することで子どもの表現したい気持ちを育て、その結果としてことばの力を育てようとする方法です。そしてそのアプローチとして「7つの技法」が紹介されています。
この方法は、聴覚障害教育に限らず、発達障害を含め、ことばやコミュニケーションの指導に広く使われているもので、技法の中には、お母さん方が日々、自然にやっておられることも多く含まれていますし、これまでにも聴覚障害教育の中で取り入れられてきたことも含まれています。しかし、一度、整理してみることで、具体的に日々の生活に‟意図的・意識的“に役立てていただけるのではと思います。
4つの基本姿勢~SOUL
待つ(Silence)
まず初めに子どもが何かをやろうとしているとき、それをやり始めるための余裕を作ってあげることが大切です。そのためには、大人は自分の考えや意図を押し付けるのではなく、肯定的な雰囲気をつくり子どもの様子を静かに見守ります。
観察する(Observation)
子どもを静かに見守りながら子どもが何をどのようにするかをよく観察します。単にコミュニケーション能力だけではなく、子どもの気持ち、モノや人への興味関心の持ち方、その能力などについて観察します。
深く理解する(Understanding)
観察し感じたことから、子どものコミュニケーションの問題について理解し子どもにどんな援助が必要かを考えます。
耳を傾ける(Listening)
子どもに対して良き聴き手であること、それは単に耳からききとり口から出てくることばだけではなく、表情、身振りなども含め子どもの表す様々なサインを感じ取るよう努めます。
7つの技法
ミラーリング
例えば、赤ちゃんが「バンザーイ」の動作をしたら、対面しているママも「バンザーイ」をするというものです。1歳を過ぎた子どもたちが好きなのは積み木倒し。積み木を倒した時に大人が倒れるのを見て、子どもは最初笑っているだけですが、今度は自分から倒れて、大人が自分と同じように倒れるかなと、期待いっぱいに見るようになります。こうした子どもの動作を真似ることで、子どもは自分と同じことをしている大人を見ながら、自分が何かすると大人が同じように動いてくれる事に気づき、自分が仕掛け人になれていることに気づきます。それが嬉しいので、相手が自分と同じことをするかを確かめながら、視線を向けてくるようになるわけです。
モニタリング
子どもが「マンマンマン」と発声したら、親御さんも「マンマンマン」、子どもが「失敗!」と手話したら、親御さんも「失敗!」と手話するというように、発声や手話といった言葉をそのまま真似て返すことをモニタリングといいます。これは、自分の発声や表した手話が相手にどう伝わったかを子どもが自分で見たり、聞いたりして確かめることができるため、また同じように声を出してみようかな、手話してみようかなという意欲につながります。
パラレル・トーク
子どもがぬいぐるみのくまさんにミルクを飲ませている時に、「くまさんにミルクあげているのね。」と子どものしている行動を言葉で伝えたり、泣いている時に「パパ、会社に行っちゃった。寂しいね。」というように気持ちを言葉にして返したりすることです。こうした子どもの行動や気持ちに沿った語りかけをしてもらうと、子どもは、ママは自分をわかってくれているという理解、安心感につながり、信頼につながります。
セルフトーク
「ママ、手話の勉強に行ってくるからね。」「ママ頭が痛くて、元気ないの。」「ママは〇〇ちゃんがお片づけしてくれて、嬉しいな。」というように、ママの行動や気持ちを言葉にして伝えることをいいます。大人の行動や気持ちの言語化は、子どもに安心感を与えると共に、語彙の理解を広げるチャンスにもなります。
リフレクティング
子どもがネコを見て「ワンワン」と手話や音声で伝えてきた時に、「違うでしょう。あれはネコ、ニャーオ、ニャーオ ネコよ。」と否定するのではなく、「ニャーオ、ニャーオ ネコね。かわいいね。」と正しい言葉を返すだけで良いのです。また、「パンダ」を「あんあ」と発音した時にも「違うでしょう。」「はっきり 言ってごらん。ぱ・ん・だ」と言い直させるような関わりは、子どもに話す意欲を失わせてしまいます。あくまでも「パンダ、パンダね。」というように正しい音を聞かせることにとどめることが大事です。ただ、難聴の子どもの場合は、正しい音を聞き続ければ、いずれ正しい発音ができるようになるとは限りません。きこえる子どもでも、発音器官が成熟するのは5,6歳頃と言われています。難聴の子どもの場合は、正しい音韻が耳から入ってこないという聞こえの限界があるため、鏡を見て視覚的な手がかりを得ながら、舌や唇、顎等の筋肉の使い方(筋感覚)のコツを学び正しい発音に導く発音指導を受ける適当な時期があります。基本的には、3,4歳までの幼い時期は難聴児が正しい発音で話すこと以上に、たくさん話したい気持ちを育てる事を大事にしたいので、発音を厳しく指摘するのは気を付けていきたいものです。
エクスパンション
子どもの言ったことばを意味的あるいは文法的に広げて返す。子どもが「ミズ―!」と単語だけで言ったとき、「水を ちょうだい」と二語文で返します。発せられたことばの意味に合わせて正しい文で、不足した表現を補って返す対応です。子どもは自分の知らない表現を学ぶことができます。
モデリング
子どもの話題に沿いながら、新しいことばのモデルを示します。子どもがおやつを食べているときに、「もぐもぐもぐ、おいしいね!」とか、特急電車を見て「デンシャ」という子どもに、「特急電車だ!ピューッ!速いね!」など、新しいことばや表現方法を伝えることを言います。
まとめ
以上7つのポイントを大人が子どもとのコミュニケーションに活かすことで、子どもは自分が受け入れられていることを実感し変わってきます。それから、インリアル・アプローチの基本姿勢や技法には書かれていませんが、きこえない子とは、必ず「目を合わせて」から話しかける、ということが大事です。見ていない時に声をかけたり手話をしたりしても、子どもには「向き合う気持ち」が伝わりません。忙しい毎日でしょうが、子どもと関わる時間の少なさを質でカバーする!と考えてやってみていただければ幸いです。最後に自分の関わりの自己点検表を提示しておきますので使ってみてください。