きこえない子は、将来、きこえる人が多数を占める社会の中で生きていかなければなりません。その時に、自分のこと(障害を含め)を適切に周りに伝え、とくに障害への理解を得ていくことが大切です。そのために必要な力は、ものごとを深く見つめ、論理的に思考し、自分のことを相手に伝わるように的確に表現する力とくに書記日本語力でしょう。では、そうした力を育てるにはどうすればよいでしょうか?
「書く」力は、①日本語の語彙力・文法力をつけること、②自分の生活や自分自身を見つめる目を培うこと、③自分のことを他人に伝える表現力をつけることが一体となった総合的な力です。では、その力をつけるための日記・作文指導はどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。
日記の基本~はじめは生活作文から
聾学校幼稚部などで保護者と一緒に「絵日記」を書く経験を積み重ねてきたきこえない子は、小学部(小学校)に進むと自分の力で「(絵)日記」を書くよう求められます。多くは、日記の定番である生活作文(「今日は、・・・」で始まる自分のしたことや見たことを書くパターンの作文)ですが、自分や自分のまわりのことを自分のことばで丁寧に見とり、表現していくという、文章表現の基本的な力を育てる上で生活作文は大きな役割を持っています。
上の例は聾学校小学部1年生の二学期末の日記ですが、生活作文の中でどのような力を育てていけばよいでしょうか? 以下に、いくつかのポイントをあげてみます。
日記指導~5つのポイント
1 | 自分の経験や周りで起こったこと、見たことなどから、自分で題材を選ぶ力 |
2 | 自分が経験したことを、時間的な順序に沿って書く力 |
3 | その時経験したことの様子や会話、気持ちなどを思い出し書く力 |
4 | 時間的順序、場面の変化などに応じて段落を構成する力 |
5 | 適切な語を選び、文法にしたがって適切に表現する力 |
最も大事なことは、褒めること!
上記のような観点に沿って、上の二つの事例をみてみましょう。
まず一つ目の「自分で題材を選ぶ」という点では二人とも自分で選んでいるのですが、左側の事例がやや長い時間的広がりの中での出来事であるのに対して、右側の事例は「そうじ」というテーマに絞って書けてます。
二つ目の「時間的な順序に沿って書く」という点では二人とも出来ています。
三つ目の「その時の様子や気持ち」も表現されています。左の事例の最後の文「そうじをしてそばをたべて大みそかみたいでした。」の中の「大みそかみたい」という比喩表現は、この日記のテーマがユーモラスにそこに表現されていますし、右側の日記の「へやがピカピカになりました。」では、がんばって掃除をした満足感がよく表現されています。
四つ目の「段落を構成する力」では、二つの事例とも四つの文で四つの段落を構成し、いわゆる「起承転結」の四段落構成法に合致しています。
最後に五つ目の語の選択や文法に沿って書くこともできています。
低学年の日記は上記のような観点からみていけばよいと思います。しかし、最も大事なことは、まず、「褒める!」ことです。子どもは担任の先生に読んでもらいたくて日記を書いてきます。しかし、読んでもろくにコメントが書いてもらえなかったり、文の誤りの指摘ばかりされるのでは、書く意欲もだんだんと萎えてきて、そのうちワンパターンのつまらない日記になってしまいます。そうならないためには、どんなに忙しくてもコメントは必ず書くこと。そして書いてきた日記の中から評価できる点を見つけて、まずは褒めることです。どんなつたない文でも必ずよいところがあります。そこを評価し、そのうえで改善すべき点を一つ、二つ課題として出すのです(決して欲張ってはいけません)。
低学年の担任は本当に忙しい毎日です。でも、このような積み重ねの上にこそ、「書く力」もつくということを心に刻んでおいてほしいと思います。