きこえているのに、ききとれない!~聴覚情報処理障害(APD)って?

発達障害・その他の障害
この記事は約5分で読めます。

この障害をお持ちのお子さんの保護者から私のところにも相談メールが来ることがあります。この障害の特徴は、聴力検査では、音が鼓膜に届いているのに、日常会話や授業などの場面で、音声言語が言葉として脳にうまく伝わらないということです。ですから、音が聞こえているかどうかの違いを除けば、起こってくる問題は難聴児の場合とよく似ています
 人によって状態は少しずつ違うようですが、一般的に以下のようなことが起こってくるようです(以下『マンガでわかるAPD(聴覚情報処理障害)』坂本浩一,法研,2021より引用)

どんな時、ききとりにくいの?

①騒音の多い場所(街中、車の音、店内の音楽、会話、雑踏、居酒屋、テレビ、空調音等)では聞き取りにくい。
②複数の人が同時に話すとき(会議、談笑など)聞き取りにくい
③電話・音声機器を通した声(携帯、固定電話、テレビのセリフ、オンライン)は聞き取りにくい
④初対面の相手、早口、低音のことば、マスク、急に話しかけられた時など聞き取りにくい
*右図は『聞こえているのに聞き取れないAPDがラクになる本』平野浩二,あさ出版より

どんな対応が必要?

上のような状態は、音声言語で話ができる軽中度難聴や人工内耳装用者の状態とかなり共通しています。したがって、APDの子ども(診断がつくのは基本的に学齢期以降)に対する環境の調整、支援機器の活用なども、難聴児に対する支援の方法とかなり共通しています。そこで、これまでに私たちが行ってきた難聴児への支援の方法などを参考にしながら、それぞれのAPD児の症状の特徴やそれを受け入れる学校環境の条件等を考慮しながら、できることから取り入れていくことになるかと思います

教室環境について

①席の位置(窓側寄りまたは中央の前から2,3番目。先生の話が聞き取れ、後ろの子どもの様子が見やすい)

②椅子の脚に切れ目を入れたテニスボールをつけるなど騒音を防ぐ工夫。

③校内放送は聞き取りは難しい。先生は友達が伝えることが必要。

④ビデオやCD等の聞き取りも難しいことが多く字幕や翻訳が必要。 ⑤     ポスター、写真、表など視覚教材・掲示物を多くし、伝達事項は板書する。

授業のとき

①板書しながら話さない。必ず前を向き、子どもが見ているのを確認して話す。

②板書を多くする。視覚教材も活用する。

③児童が発言するときは、必ず指名し誰が話すかを確認してから話す。また、遠くの児童の発言は、再度、教師が要約する。

④教師は、教室を歩きながら話さない。

グループでの話し合いのとき

①発言する児童は挙手し、子どもがその児童に着目したことを確認してから話す。

②速いテンポの話し合いについていくのは難しい。発言者の言葉が字幕表示される「UDトーク」などのスマホアプリ等を併用する。

機器類の活用

①音声文字変換アプリ(上記スマホアプリ)

②ノイズキャンセリング機能付イヤホン・・・環境騒音を抑制しながら、人の声がクリアにきこえる機器。

③補聴援助システム(フォナックの「ロジャー」など)・・・先生が送信機(マイク)を首からぶら下げ、子どもは補聴器で音声を聞き取る。小グループでの会話にも応用できる。

手話・指文字の活用

 APDは本人が「きこえている」ので、手話・指文字を活用する支援はあまり考えられていませんが、家庭で手話を覚えて家族で手話と音声とを併用する会話は有効ではないかと思います。

本人への支援・指導

 本人が「聞き取れていない」と自覚でき、周囲に援けを求められる環境が必要です。
「よく聞き取れないから、もう一度言ってほしい」「書いてほしい」などの要望が、当たり前に言えるようになると、本人はもっとラクになると思います。
 また、ことばを聞き取る時に、知らないことばは聞き取れません。どのような文脈でどのことばが使われるか、それがわかるためには、ことばの数を増やすことも必要です。そのためには、読書(マンガも含む)、語彙拡充のためのドリル等に取り組むこともよいでしょう。さらに、新しい言葉が出てきたときは、ことばの意味だけでなく、例文作り、その語に関連する類義語、反対語、漢字なども調べてノートに書くようにすると「記憶の多重効果」によって覚えやすくなります。とくにワーキングメモリーが小さくて丸暗記が苦手な子どもは難聴児にも多いですが、このような工夫をするのもよいと思います。

今後の課題

 APDは、まだまだ難聴ほどには知られていない障害ですから、なかなか周囲の人たちの理解を得ることも大変なことが多いようです。日本では、診断できる医師が少ないことも課題の一つです。そのため、学校での聴力検査や病院耳鼻科でも発見されにくいようです。 
 しかし、質問に端的にこたえられない、音声での情報への理解度が著しく低い、勘違いが多い、乳幼児期に頻繁に中耳炎にあるなどのいくつかの典型的なサインもあるようです。さらに、聴覚情報処理障害を持つ児童は、読み書き障害やADHDなどの発達障害を併発するケースも少なくないようです。
 難聴児に関しては、現在、早期発見・早期支援の取り組みが国・自治体をあげて行われていますが、APDについても早期発見・早期支援が重要であり、対策が進むことが望まれます。

参考になる書籍

①『APDがわかる本、聞き取る力の高め方』小渕千絵、講談社、1540円
②『マンガでわかるAPD(聴覚情報処理障害)』阪本浩一、法研、2021、1760円
③『聞こえているのに聞き取れないAPD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』平野浩二、あさ出版、2019、1760円

タイトルとURLをコピーしました