子どもを引き付けるスマホゲーム、ネット動画etc.
先日、ある聾学校幼稚部で、家庭での「生活・学習アンケート調査」を実施しました。そこから浮かび上がってきた子どもたちの姿は、「ビデオやYouTube動画、スマホやタブレットなどの電子機器ゲームにかなりの時間を費やし、一日の流れ・時間をあまり意識することなく、次の日の準備は親任せで、お手伝いも特に決めてやってはいない」という受身的な生活に陥っている姿でした。中には、子どもだけではなく「仕事から帰ってきたお父さんも一人でゲームに夢中になっている」(ゲーム依存症?)という家庭などもありました。
アンケートの質問の中には、これらのゲームをやる時間を決めているかどうかを尋ねる項目もありますが、回答では「時間を決めている家庭」は3分の1。3人のうち2人は一日のうちのかなりの時間をテレビとゲームに費やしている様子がうかがわれました。
このことを一概に否定するつもりはありませんが、スマホゲームは刺激も強く、ついつい引き込まれて見てしまう、不思議な力をもっています。バーチャルな世界で登場人物との疑似コミュニケーションも体験できます。「一人の世界」なのに主人公とともに仮想世界の中で共に戦ったり冒険したりという魅力は、現実の世界の中で孤立しがちなきこえない子をひきつけます。きこえない子のはまりやすい遊びだと思います。しかし、空想の世界で遊ぶのも楽しいけれど、いつでもまた現実の世界に戻って来れるよう、遊び方のルールを決めておくことは大事だと思います。
ディナーテーブル症候群
かつて口話法の時代に育った人たちが大人になってから異口同音に語ったことは「もっと家族の団らんを楽しみたかった」「もっと家族の雑談に交じりたかった」ということでした(「早期より聴覚を活用した聴覚障害者の実態に関する調査研究」、大沼直紀ほか、2005)。こうした現象は「お茶の間の孤独」とか「ディナーテーブル症候群」などと呼ばれたりもします。それに対して「そんなのは聾者の言い訳」と評する医療関係者もいますが、人の話を「聞きかじる」ことが困難なきこえない・きこえにくい人たちにとっては、音声言語が飛び交う家族の雑談に交じることは、それほど単純なことではありません。
「なに?なに?」と尋ねても「ちょっと待ってね。あとで話すからね」と言われ、まとめて伝えられても子どもはそこに自分がいる「存在感」を感じることはできないでしょう。他愛もない冗談やどうでもいい雑談の場に居て全てが伝わってこそ、子どもにとって真にリアルな会話なのであり、自分もそこにいる存在感が感じられるのだと思います。このことの重要なそして本質的な意味を私たちは軽視してはならないでしょう。
しかし最近は、手話を使ってリアルタイムに、たとえ別のきこえる兄弟と親との会話であってもその場に本人がいるところでは常に会話に手話をつける家庭も増えてきました。きこえる子は常に家族の会話は、会話の当事者でなくても「きこえて」いますが、きこえない子は、「見ていない」「意識を向けていない」他者同士の会話はそばにいても聞き取ることができません。そのハンディを少しでもなくそうという当たり前の努力です。
このような環境であれば、手話や指文字など視覚手段を使って皆でゲームも楽しめます。ボードゲームも音声を使うことから簡単な手話や指文字や動作を使うルールにすればよいだけです。そこで今回は幼児期から、家族やきこえるきこえないにかかわらずみんなで楽しめるボードゲームをいくつか紹介したいと思います。
ボードゲームとは?
昔からあるトランプ、かるた、すごろくなどの「伝統ゲーム」から、最近は海外で作られたものまで含めて工夫されたボードゲームがたくさん市販されています。また、一人で遊べるものから数人で遊べるものまであり、電子機器を使わないアナログ的な趣があるのが特徴です。金額的には数百円くらいから。子どもと一緒に遊べるものなら5千円くらい(高っ!)までで買えるものが多いです。また、工夫して自分で開発するのもよいでしょう。
まず、ルールを決めよう!
ボードゲームの中には、声を出して宣言したり、答えを言うゲームがありますが、こういうときのルールは「声を出して宣言する」「答えを言う」代わりに、「指さし」をするとかカードの上に手をついて宣言したりします。声は見えなくとも動作なら見えます。これを「見えルール」(いりょうみきこ『ボードゲームであそぼう』上右図参照、300円,当ホームページより購入可)と言っています。それではいくつか紹介してみましょう。
数人で楽しめるゲーム
スティッキー (3歳~)
青、黄、赤の3色のスティック(棒)が木のリングで支えて立っています。じゃんけんをして勝った人から順番にさいころを振って出た色と同じスティックを抜きます。1本、1本すいていくうちにリングがだんだんと傾いてきて、抜いたときに床に着いた人が負けです。
あとの人は何本抜くことができたかな? 数えて棒の数が多い人が勝ちです。ルールが簡単なので幼い子でも楽しめます。
3歳~。2~5人。3千円くらい
ドブル (4歳~)
いくつかやり方がありますが、ここで紹介するのは「かくれんぼ」。カードを一人4枚ずつ配り動物の絵の描いてある面(表)を出します。真ん中には裏にしたカードを山積みにします。「3,2,1、ゼロ」の指文字の合図で真ん中のカードを表にします。各自は自分のカードの動物と表にされたカードの中の同じ動物を探し、あったら真ん中のカードの動物の上に手を置いて、一致した動物の名前を手話または指文字で言います。合っていれば自分のカードを裏返します。ゲームを続け、4枚とも裏返せた人が勝ちです。
4歳~。2~5人。1,500円くらい
レシピ (4歳~)
自分の引いたメニューに合わせて必要な材料を集めていくゲーム。必要な食材は6種類(6枚)。早く集めた人が勝ちです。人が捨てたカードを欲しい時は「レシピ!」と言わなければなりませんが、これは指文字の「レ」で示します。また、あと1つで完成という時「ごはんですよ~!」と言わなければなりませんが、これは「食べるよ~!」の手話をします。完成したら「終わり!」の手話。このゲームには「食事」のメニューのほかに「スイーツ」のレシピなども販売されています。
4歳~。2~4人。千円くらい
キャプテン・リノ (4歳~)
土台カード⇒壁カード⇒床カードと置いて高いマンションを崩れないように建てていきます。床カードに「リノマーク」があったらリノがそこに引っ越さなければなりません。
4歳~。2~4,5人。2千円くらい
ワードスナイパー (4歳~)
お題と頭文字で思いつく言葉を言っていくゲーム。思いついたら頭文字のカードに手を置いて解答権を得てから答えます。誰も思いつかなかったらお題カードをもう一枚めくって頭文字の選択肢を広げます。カテゴリーと語彙の力を広げることができるゲームです。右図はワードスナイパー・キッズ
4歳~。2~5,6人。1,700円くらい
文字ぴったん (5歳~)
幼児では一人5枚ずつカードを配ります。残ったカードは裏返してマス目シートの横に山にしておきます。山から2枚とってマス目シートのほし印のところに置きます。あとは順にそれらの文字に続く言葉を探して自分のカードを減らしていきます。手持ちのカードが亡くなった人が勝ちです。語彙力をつけることができます。
5歳~。2~5,6人。2千円くらい。
二人で楽しめるゲーム(5歳~)
これらのゲームは相手との勝負なので、勝つためには相手の考えを読まなければなりません。「将棋」「囲碁」は難しいですが、「ぴょんぴょん将棋」や「どうぶつ将棋」「よんろの碁」などは子どもでもできるように工夫されています。考える力や予想する力を育てるのには最適です。
5歳~。
ひとりで楽しめるゲーム(4歳~)
これらは基本的に一人で考えてやるゲームです。平面図形や立体図形など空間認識の力を育てるにはよい遊びです。
4歳~。
以上、市販されているいろいろなタイプのボードゲームを紹介しましたが、そのときどきの人数や年齢などに合わせて使うとよいと思います。また、適用年齢はあくまで目安です。ぜひ、家族みんなで楽しんで下さい!