算数で計算はできるけれど文章題が解けないという難聴の子どもはけっこういます(難聴児だけとも限りませんが、やっぱりきこえない・きこえにくい子には多い)。算数の文章題は、文を読んでその意味がイメージとして描けないと解けないので、文の理解が先ということになります。
文を読んで、頭に絵(イメージ)が浮かぶ?
例えば、上のファイルにあるような問題は果たしてイメージできるでしょうか?
「駐車場に車が4台止まっています。そのうち2台が出ていきました。また3台入ってきました。車は何台になりましたか?」 あるいは、いちごの絵が描いてあって「いちごをひとつ食べたら、残りはいくつになるでしょう?」
こうした問題を解く時に必要な力は、まず自分の頭の中に「車」とか「いちご」といったモノの映像(イメージ)が頭の中に浮かび、そのモノを頭の中で足したり引いたりして操作できるという力が必要になります。
「かず」の理解にも順番がある
こうしたモノが頭の中に浮かばないのであれば、象徴機能の発達がまだそこまでいっていないということなので、上の図のように、まず、①具体物の比較や操作をたっぷり経験させましょう。
そして、②「ごっこあそび」などで、半具体物(プラスチックの果物など)を使った比較や操作をして遊び、それから、③イチゴの絵やカードにしたものなどを援用して紙の上でイメージできるよう経験し、最後に、④文章題でのモノの比較や操作が頭の中でできるようにする。こうしたステップに沿って、幼児期の子どもの発達に合わせて、日々の生活の中で取り組んでいくことが大切です。
このようなプロセスを段階的に踏んでいくことで頭の中にモノのイメージを浮かべ、それらを増やしたり減らしたりといった操作が頭の中でできるようになれば、書かれている文を読んで自分でその意味を読み取ってイメージできるようになります。
ですから、小1になってからあわててやるのではなく、就学前の幼児期の生活を通して、2,3歳ころから少しずつかずに関わる経験を積み重ねていくことが基本です。もちろん、小1になって「うちの子、算数わかってない!」と気づいたなら、少し前に戻ってやり直しましょう。発達や学習に遅いということはありません。また、基礎から土台を積み重ねた方が子どもにとっても自信になります。
幼児期からの数量概念の育て方
子どもの数量概念の発達は、1歳半頃には「同じー違う」という比較ができるようになり、2歳代では「大小・長短・高低」といった比較概念・対概念が発達してきます。この頃、きこえない子は、音声言語だけではまだ理解が難しいので、手話を使ってその概念を教えるようにします。そして、いちばん、数量概念を教えるのによいのは、おやつの場面でしょう。2歳の頃から「おおいね」「すくないね」「な~い、ゼロって言うんだよ」といった概念を言葉にしていきます。3歳になると3の概念が理解できるようになるので、3までの範囲で合成と分解をやります。「こっち2つ、こっちは1つ、あわせたら3つになった」「ここに2つあるね、あといくつもらったら3つになるかな」「もし、弟が1つ食べたらいくつ残るかな?」・・など、かずの操作とそれに伴うことばです。
算数は、こうした幼児期の生活の延長です。幼児期のかずの経験は子どもにとっては自分の具体的経験のレベルで理解がしやすいですが、教科書に書かれた問題の文は自分の経験を離れた一般的な内容やテーマなので、そこに書かれていることが、自分の経験から離れて客観的に頭の中にその場面を描き出さなければなりません。象徴機能(イメージ)の発達やモノが「対象化」できる力の発達が必要なのです。
小1算数で使うことばは、どんなことば?
さて、小1の算数の教科書には、だいたい上のような順序で算数の加減算に使うことばが出てきます。これらのことばはきこえる子であれば就学の頃には、だいたいどの子も知っていることばで、自分の生活経験を越えて問題文に即してイメージできる(客観化・対象化できる)ようになっていますが、きこえない子は幼児期からこうしたことばを、上に述べたような場面を通して“意図的”に使っておく必要があるので(聞こえない子は「聞きかじったり」「小耳にはさんだり」といった「偶発的学習」は出来ません)、こうした言葉はプリントアウトしておいて「これはわかっているかな?」「これ使ってみよう」と時々チェックするとよいでしょう。
小学生なら、文章題の理解度をチェックしてみよう!
文章題が苦手な子は、どの程度こうした算数用語を使った文が理解できているか、上のファイルにあるような文を作ってやらせてみます。
・「3と4とで( )」 ・「5と2をあわせると( )」・・・合併
・「6から1ふえると( )」 ・「2に4をたすと( )」・・・増加(加算)
上の例は加算の「合併」と「増加」の問題ですが、こうした問題で子どもの文の理解度をまず把握し、理解できていなければ、おはじき、ビー玉、鉛筆、本などいろいろな具体物や絵、また、手話も使ってその意味を理解できるように指導をします。
また、その次の表は、算数に関連することばの一覧です(全部ではありません)が、こうした、ある意味、難易度の高いことばは、やはりプリントアウトしておいて、生活の中で実際に使っているかどうか、子どもが理解できていることばかどうかチェックし、まだ習得できていない言葉なら、使うチャンスがあったときにあるいは意図的に使う場面を設定して学習するようにします。
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★『難聴児はどんなことで困るのか?』65頁「算数でつまずかないために~『機能語』の習得」https://nanchosien.blog/hearing-impaired-problem/#trouble