きこえる子(人)も助詞は苦手?


先日(2026.6.17)、朝日新聞教育欄で、日本の子どもたちの機能語の習得の課題についてレポートされていました。機能語とは助詞、助動詞、接続詞、指示代名詞など、それ自体には具体的な意味を持たず、文法的な役割や語と語との関係を示す語のことです。
記事の中で出されていた問題(上図参照)は、二つの文の意味が同じになるように、( )の中に助詞を入れなさいという問題ですが、これを、学校の先生方の研修会で紹介し、その場でやってもらいました。助詞を入れる( )は5つ。しかし、5問全部を正しく入れることが出来た人は1割以下。大学を出た先生たちでもこれが実態ですから、聴こえない子にとって、機能語の習得は、相当の困難さが伴うということはわかっていただけるのではないでしょうか?
ところが、現行の国語の教科書のどこを見ても、「助詞を指導する」ことを単元の目標に設定した箇所は存在しません。助詞だけではなく、動詞の活用(助動詞)や形容詞の活用など大切な文法事項も同様です。「そんなことは、子どもは自然に習得しているから指導の対象にはならない」と言わんばかりです。その結果が、上記の大人の方たちの、しかも学校の先生たちの実態なわけですから、やはり日本の教科書はどこかちぐはぐなのです。
そのようなわけで、私たちは、難聴児のために、助詞や動詞・形容詞の活用、主述関係や文の構造の理解の仕方など、視覚教材を様々に工夫して難聴児の指導にあたってきました。 今回、報告する事例も、指導書等には書かれていない助詞「が」と「を」の指導を、小1国語『大きなかぶ』の単元の中で、独自に工夫しながら行った貴重な実践です。難聴児を指導されている先生方の参考になるレポートですので、ぜひご一読下さい。
小1国語『大きなかぶ』での可逆文(助詞「が」「を」)の指導 ~沖縄ろう学校小学部1年担任 伊波 興穂


対象児
小学部1年4名(ろう学校一般学級)
単元名
小学校1年国語科『おおきな かぶ』(光村図書)
児童の実態と授業の概要
対象の4名は、本校幼稚部から進学してきた児童が3名、地域のこども園から進学してきた児童が1名である。聞こえの程度は様々で、人工内耳装用が2名、補聴器装用が2名である。入学してきた当初は指文字や手話がわからなかった児童も、6月には全児童が平仮名を指文字で表したり、読み取ったりできるようになり、授業中はお互いに手話や指文字を使って伝え合う様子が見られるようになってきた。

4〜6月の国語科の授業は、教科書の単元通り進めるのではなく、しりとりをしながら語彙を広げたり、しりとりで出た単語をカテゴリーごとに分類し上位概念語の理解を広げたりする時間にあててきた(図1)。
また朝の会では、格助詞「が」や「を」使った2〜3語文で昨日の出来事を伝えあったり、授業風景の写真を見ながら3語文で絵日記を書いたりするなど、助詞「が」「を」の使い方を繰り返し学習してきた。
6月に入り、児童が助詞「が」「を」の使い方を理解できてきたことから、本単元『おおきなかぶ』の学習に入ることにした。本単元は、「かぶをおじいさんがひっぱって」「おじいさんをおばあさんがひっぱって」のように、「〜を〜がひっぱる」の文型が繰り返されており、挿絵と照らし合わせながら登場人物の順番を考えやすい文型になっている。しかし、格助詞「が」「を」の理解が未定着のまま学習してしまうと、「おじいさん/おばあさん/ひっぱって」のように、誰が誰を引っ張ったのか主語が曖昧なまま読み進めることになってしまう。そこで本単元では、教科書本文を動作化して主語や述語を確認した後、格助詞「が」「を」を入れ替えると並びがどう変わるのかを考えさせたり、挿絵に合う文になるように正しい助詞を選択させたりする学習内容を設定し、可逆文の理解定着を図ることをねらい、実践を行なった。
自立活動との連携

本校小学部では自立活動専科がおり、個別での自立活動の時間が週2時間設定されている。また、日本語文法指導の年間計画を作成し、指導計画に沿って文法指導を実施している(別紙資料1・上図参照)。
本単元の学習にあたっては、単元に入る前に自立活動の時間に「AがBを叩く」「BをAが叩く」のような可逆文の理解を図る学習を設定してもらった。また、児童に覚えてほしい動詞をリストアップし、動詞語彙の拡充も同時に行ってもらった。本単元で出てくる動詞も児童は事前に学習した状態であった。
本時の目標(4/8時、単元計画は下図参照)

本時の様子


事前の学習をふまえ、本時の学習では教科書の本文を読み、実際に動作化をして登場人物の並びを確認した後、「①おじいさんがおばあさんをひっぱる」「②おじいさんをおばあさんがひっぱる」という2文を提示し、どちらが正しい文か、その理由はどうしてかを児童に尋ね、理由を話し合う時間を設定した。4名中3名は②の文を選択していたが、1名は①の文を選んだ。そこで①が正しい理由を児童同士で話し合う時間を設定したところ、助詞カードを挿絵に重ねて説明する児童の姿が見られた(図2)。
その後、ワークシートを使い、示された文が正しいか誤っているかを考える問題を解く活動を設定した。 ワークシートを解く際、迷っている児童には助詞カードを配布し、助詞カードと登場人物の位置を照らし合わせながら考えることで、全員が正しい文を選ぶことができた(図3)。
成果と課題


成果
(1)自立活動担当者と連携して学習に臨むことで、日本語文法指導 を積み上げながら教科書の学習に入ることができた。
(2)単元の学習の中に日本語文法指導の視点を組み込んだ内容を設定することで、児童が助詞に注目して教科書本文を読んだり、本文に立ち返って考えたりする姿が見られた。
(3)助詞カードを使うことで、普段の会話では欠落したり聞き落としたりしやすい助詞に着目して考えようとする児童の姿が見られた。
課題
・普段の日記の中で「が」と「を」間違えて書く児童もいるため、本単元だけでなく別の単元や日常会話の中でも主語を意識させるような言葉かけや発問をしていく。
感想とコメント~国語教科書の中でどのような文法事項を指導するか?


きこえる子もきこえない子も、国語教科書を通して文法とくに機能語の指導が不可欠です。とくに、聴覚障害児の場合は、助詞や動詞の活用の指導が必要です。にもかかわらず、国語教科書には助詞の指導をとりあげた単元はありません。ですから、教師は児童の実態を踏まえて自分で指導内容・方法を工夫するしかありません。今回の指導事例は、まさにそのような実践です。助詞「が」「を」を含んだ「~が~を+動詞」の文型は、最も頻繁に用いられる文型であり、その意味で、小1で最初に取り上げるべき助詞です。
今、文型と言いましたが、日本語にも実は基本文型というのがあります。そのパターンは上図のように4つです(詳しく言うと5つですが)。これについてはここでは触れませんが、これら4つの文型は、助詞の「に」や「と」を指導する時に取り上げる必要があります。
さて、もう一度、『大きなかぶ』に戻って、この単元を通して「~が~を+動詞」「~を~が+動詞」というかたちで助詞「が」と「を」の役割を指導することは、タイムリーだと述べました。では、それ以外にどんな文法指導が可能なのでしょうか? 文法は、書かれた文章をどう意味付け解釈するかに深く関係しています。ですから、教師は自分の文法的知識を使って作品を読み込み、それを指導に活かしていく必要があります。例えば、この『大きなかぶ』はいくつかの段落に分かれていますが、上図のように第3段落の冒頭は、「おじいさんは おばあさんを よんできました」となっています。では、「おじいさんは おばあさんを よびました。」とどう違うのでしょうか?
「呼んできました」とはどう状態をさすのか? 「呼んで+くる」とは、空間的移動と時間的経過が含まれる意味をもつ表現です。ですから、おじいさんは、家にいるおばあさんのところまで行って、そして、一緒にやって来たことになります。ですから「呼んできました」は現在完了形の意味をもつ表現なのです。この「呼びました」と「呼んできました」という意味の違いは、動作化すれば小1児童でも理解できます。
次に「ひっぱって」。これは、「引く」を強調したことばです。「引く」と「引っぱる」の違いは、力の入れ具合の違いです。ここでは、皆で力を合わせて一斉に動作するわけですから、単に「引く」ではなく「引っぱる」でなくてはならないです。これも動作化すれば、小1でも理解できます。
さらに、「引っぱって・・・引っぱって・・・」という「動詞+(接続助詞)て」がいくつか現在形でつながって一つの文になっています。これは、「引っぱりました」「引っぱりました」では、動作が一つ一ついったん切れていしまいます。ここでは、その動作がひとつひとつ連続性をもってつながって全体のひとつの行動になっているわけですから、「ひっぱって・・ひっぱって・・・」とつながっていかなければならないのです。
また、ここでは、ずっと現在形(進行形)が使われています。そして、最後も「・・かぶは、ぬけません」という現在形で終わっています。これはなぜでしょうか?
もし、「かぶは、ぬけませんでした」だったとしたら、動作の一旦の区切りです。そうではなくて、現在形を使うことで、「まだ 抜けていないよ。ほら、見てごらん。そうでしょう」という、動作はまだ進行中だよという意味をあらわすと同時に、小1や幼児にもその場面に没入し共感しやすいよう、臨場感をもたせる現在形が使われているわけです(とくに低学年の単元では、現在形は頻繁に使われています)。
もちろん、児童にどこまで指導するかは別として、そこにどのような文法があるかということを知っておくことは、その作品の解釈に深みを与えることにつながります。文法の使い方によって意味がどう違うのか、教師の側もしっかりと学んでおく必要があると思います。
さて、最後にもう一つ。『大きなかぶ』は、日本の教科書会社の教科書全てに載っている作品です。そして、光村図書は「かぶを おじいさんが ひっぱって、おじいさんを おばあさんが ひっぱって・・・」と「~を~が~」という語順になっていますが、その他の教科書では、「おじいさんが かぶを ひっぱって、おばあさんが おじいさんを ひっぱって・・・」というように、「~が~を~」という語順になっています。力の伝わっていく方向を考えると私は光村図書の語順の方が自然な感じがしますが、皆さんはどう考えられるでしょうか? こんなことを考えてみると、この作品がさらに興味深いものになるのでは、と思います。(木島記)
