教科の中での日本語文法指導~小3国語「三年峠」での動詞否定形の指導

国語教科書
この記事は約4分で読めます。

はじめに

 国語教科書の中には、さまざまな文法表現が出てきますが、日本語の語彙や文法の力が不足しがちな多くのきこえない子にとっては、聴児と同じ目標では学習のハードルが高いというのが現状でしょう。今回紹介する『三年とうげ』(以下『三年峠』,光村図書,3年下)においても、「~ない」という、いわゆる動詞否定形(日本語教育では「ナイ形」)が出てきますが、この「~ない」という表現は、否定・打消し、不可能、禁止などの意味・用法があり、きこえない子が戸惑う文法事項の一つです。具体的にこの単元の中からいくつか取り出してみましょう。
 
「あまり高くない、なだらかなとうげ」
「三年峠で 転ぶでない。」   
「三年きりしか 生きられぬ。」
転ばないように、おそるおそる歩きました。」
こうしちゃおれぬ。」
「ごはんも 食べずに」
そうじゃないんだよ。」
 ここに出てきた文を意味・用法別に分類してみましょう。

用法意味教科書文手話表現例
①否定・打消し動作や状態の否定①「高くない、なだらか
な峠」
②「ごはんも 食べずに」
③「そうじゃないんだよ」
④「ころばないように」
⑤「三年峠で転ぶでない
①/高い/ /否定・違う/
②/食べる/ /否定(ない)/
③/それ/ /違う/
④/転ぶ/ /注意する/
⑤/転ぶ/ /注意する/
②禁止行為をしてはいけない*「ころぶでない」をここに分類も可
③不可能出来ない①「三年きりしか生きられぬ
②「こうしちゃおれぬ
①/三年/ /生きる / /無理 / or /三年/ /だけ/ /生きる/ /出来る
②/今/ /様子/ /だめ/
or /(じっと)いる / / 無理 /

*今回の実践報告では、「三年峠で転ぶでない」は、積極的な意味にとらえ「禁止」に分類。
 以下、伊波興穂先生による実践報告です。

教科の中での日本語文法指導の取り組み 伊波興穂(沖縄ろう学校)

対象児

 ろう学校小学部3年生

児童の実態と授業の概要

 対象の児童は、重度の感音性難聴で、両耳とも補聴器を装用している。学校や家庭でも手話に口話を併用してコミュニケーションを図っている。語彙数は少なく、助詞の誤りも多いが、場所を表す助詞「に・で・を」の使い分けや、動詞をテ形に直すルールなど、毎日の学校生活の中でくり返し学習していることは定着してきている。本単元である「三年とうげ」の中には、「三年とうげで転ぶでない(転んではいけない)」、「長生きしたくも生きられぬ(生きられない)」「みんな転ばないように」のように、様々な否定形の文章が出てくる。しかし、それぞれの「ない」の意味は異なっており、日常生活の中でも使用頻度が高い否定文の形である。そのため、手話での確認だけでなく、それぞれの「ない」の違いや使い方を指導する必要があると考え、学習内容を設定した。

本時の目標

・「ない」の意味を考え、教科書の文章に合う手話表現を考えることができる。
・3つの「ない」の使い分けを意識し、短文を作ることができる。

授業の様子

 今回の授業では、教科書本文の読解を先行して行った。本文中に出てくる「ない」の表現について、指導前の児童は全ての「ない」を打ち消しの意味を表す「ない」の手話で表現していた。そこで、一文ずつ意味を確認し、「転ぶでない」は「転ぶ/だめ」、「生きられぬ(生きられない)」は「生きる/できない」、「転ばない」は「転ぶ/しない」のように各文に合う手話表現を児童と考える学習を行った(図-1,2)。

 その後、3つの「ない(①ダメ・禁止、②しない、③できない)」の形に合わせて、日常生活で使う動詞を実際に活用する学習を行った(図ー3)。学習の導入時、児童は動詞活用表を見ながら、「(登る+いけない)はテ形、(登る+ない)はピンク・・・」のように一つずつ動詞の活用形を確認しながら文を考えていたが、徐々に活用のルールを理解し、活用表を見ずに文を作ることができた。また、この活用学習の中では「~してはいけない」の文を「動詞/行く/ダメ」と手話で表現することもあったため、「いけない」という一つの言葉(まとまり)だということを児童と確認することもできた。

 さらに、国語科の中だけでなく、他教科の中でも学習した否定文を意識的に使用し、理解の定着を図った。算数では、「三年とうげ」と同時期に行った分数のたし算・ひき算の学習の途中、児童から「分数のひき算は、『分母を引いてはいけない』だね」という言葉(指文字と手話での表出)があり、児童の言葉をそのまま学習のまとめとして使用した(図ー4)。国語科の読解だけでなく、3つの否定文の形に合わせて動詞活用の学習を取り入れたことや、他教科の中でも意識的に否定文を使用したことが、前述した児童の言葉や気づきに繋がったと考える。また、言葉の使用場面を広げることで、日本語文法の定着や般化につながると再確認することができた。

成果と課題

成果

 ①児童が3つの否定文の違いを理解し、教科書を読む際に意識して手話を使い分けるようになった。  
 ②3つの否定文に合わせた動詞の活用を理解し、児童が一人で動詞を活用して否定文を作ることができた。

今後の課題

・今後は未習の否定文(走りません/走っていない/走らず等)の理解にも繋げる必要がある。

参考になる記事

☆『位置詞』の指導~小3社会単元「わたしたちのまちと市」を通して
https://nanchosien.blog/noun-of-place/#ichishi

タイトルとURLをコピーしました