補聴器したのにきこえてるの?~幼児の聴性反応の見方

聴力測定・聴覚活用
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 赤ちゃんが補聴器をつけて間もない頃のお母さんたち方からこんな質問を受けます。
「補聴器をつけているのに、呼んでも反応しません。大丈夫でしょうか?」
「大きな音を出しても振り向かないのですが・・」
「きこえているのか、きこえていないのか、反応があったりなかったりで心配です。」・・・

 お子さんの難聴がわかって間もない時期の親御さんは、補聴器をつければすぐきこえるようになるのでは?と思っておられる方や、音が大きく増幅されていれば音に気づくはずだと思う方も多いようです。しかし、実際には、聴力が重ければ重いほど、子どもは音に対しての反応をそう簡単に、はっきりと表してはくれません。では、音は入っていないのでしょうか? 

初期のきこえの反応の特徴

 補聴器の調整によっては、音の増幅具合(=利得・ゲイン)が不足しているということもありますが、音が十分に入っていても、反応をはっきりと表してくれるわけではないところが、子どもたちの初期の聴性反応(きこえの反応)の特徴です。

 難聴の赤ちゃんはこれまでに音を意味のあるものとして聞いた経験がありません。極端に言うとこの世の中に音が存在しているんだということ自体を知りません。ですから、赤ちゃんの聴力と補聴器の調整から十分に音が入っていると考えられる場合は音が入っているのは確かなので、あとはどのような関わり方をして、音の存在に気づかせていくのか、家庭でどんなことをすればいいのかということになります。

家庭での聴性反応の見方

 さて、ではどのようにして聴性反応をみていけばいいのでしょうか。子どもは補聴器を装用したことで、今まで入らなかった刺激=音が入ってくるわけですが、その時に理解しておかなければいけないのは、その音は、私たち聴者がきいている音とは全く違う、不明瞭で、曖昧で、歪んだ音であるということです。「たろうちゃーん」と呼んだからと言って、「た・ろ・―・ちゃーん」と一音一音(音韻)がその音の通りに明瞭に耳に入ってくるわけではないということです。そして、まだ聞き慣れない自分の名前を呼ばれても、突然、得体のしれない音の刺激に驚くことはあっても、「名前がわかって振り向く」という反応が見られないのは当然のことです。ですから、名前を呼ぶ時には、赤ちゃんの前のほうから、目線が合った時に指文字やサインを付けて(太郎の「た」など)、あるいは後ろから肩をトントンして、笑顔とともに「たろうちゃん」と自然体で呼びかけるということを心がけていきたいものです。

豊かな経験と共に

 次に、私たち聴者も、きこえてくる音が何の音か、経験を通して学んできたということを理解しておく必要があります。救急車が「ピーポーピーポー」とサイレンを鳴らして走る様子を見て、音をきけば救急車のイメージが伴うようになってきたはずです。その時に、身近にいる大人から、「どこかで事故があったのかな?」「誰か病気で救急車を呼んだのかな?」という話を聞いたり、大人同士が「近くの○〇病院じゃなくて、××病院のほうがいいよね。」などと話しているのを「聞きかじったり」しながら、救急車=病院、けが、病気…というイメージが形成され、音を聞くとどこか不安な思いになるように聴覚学習をしてきているわけですね。

 しかし、見たこともない鳥や動物の鳴き声を聞いても、その音からその鳥や動物をイメージすることはできません。テレビで見たことがある…といった間接体験も含めて、体験したことのないものについては、音をきいてもイメージが持てないのです。そのように考えると、補聴器をつけて間もない子ども達にとって入ってくる音は、体験したことのない、イメージが持てない音だらけ。つまり、入ってくる音は全て‟雑音”と言えるでしょう。何の音であるかがわからないので、音を積極的に探そうといった、振り向き反応が見られないのは当たり前です。私たち聴者も、自分に関係のないエアコンの音や雑踏での他人の声等は、雑音と見なしていちいち気に留めないはずですし、人声の中にたまたま自分のことが話されているのが聞こえたりすると、思わずそちらの方向に耳がダンボになったりしますが(カクテルパーティー効果)、それと同じです。大きな音がして、それが補聴器から音として入ってきたとしても、何の音かというイメージや興味関心がなければ、子どもは反応を示しません

きいて楽しい経験をたくさんもちましょう!

 ですから、わが子がきいて楽しんでいるのかなと思われるおもちゃや楽器、太鼓、鍋、フライパン等の音で、きくあそび(音遊び)をたくさん経験した上で、子どもが楽しめた音を使って反応をみるとよいと思います。音をきいて、見て、触って、奏でて…とたくさん聴覚以外の感覚も駆使してきいたことで、その音にまつわるイメージが豊かに形成されている音を使うのです。こうした音を近い所できかせてみると、「おや?僕の知っている〇〇の音だ!」と、子どもは振り向いてくれるでしょう。こうした振り向き反応を引き出すためには、親御さんが共感しながら遊びを通して聴いて楽しむという積み重ねが必要ということです。「きこえているのか、きこえていないのかわからない」のは、子どもにとって、耳から入ってくる音がイメージの持てない音であるため、反応の示しようがない状況にあるともいえるわけです。

参考になる書籍

★「『きこえない!』でも、大丈夫」ー疑問と悩みに応えるQ&A60ー
第1章 きこえないってどんなこと?>2.子どもの聴力とオージオグラム 3.子どもの補聴器 
全国早期支援研究協議会 A5版84頁 800円 https://nanchosien.blog/ok/#ok 

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