はじめに


2025.12.18の投稿記事で、ある聾学校幼稚部年中幼児38名(2019~2024)のワーキングメモリーと日本語力を調査した結果、①全体の37%にあたる14名にワーキングメモリー(以下WMと略す)に弱さ(課題)がみられたことを報告しました(円グラフの赤色とオレンジ色の部分)。
そして、②それら14名のうちの12名(円グラフ赤色部分)はWMだけでなく、同時に日本語習得面でも弱さ(課題)があることもわかりました。WMの弱さが日本語の習得になんらかの影響を与えていることを示唆する結果でした。
さらに、③幼児全員38名の年中から年長にかけての1年間での日本語力の伸びを調べたところ、WMと日本語に課題のある12名(円グラフ赤色)は、1年間の日本語の伸び(Jcoss検査の年間の伸び)が非常に小さいこともわかりました。Jcoss(ジェイコス)という検査では、難聴幼児は平均的に1年間で通過項目数が2~3項目増えますが、これら12名の子たちの伸びは1項目に満たない、つまりほとんど語彙力が伸びていないということがわかりました。結局、「WMに課題のある幼児は、日本語の習得も苦手」ということになります。Jcossの結果から具体的に言うと、Jcoss冒頭の項目である「名詞」の段階にずっと留まっているわけです。
では、このようなWMの容量に課題のある幼児にどのようにアプローチしていけばよいのでしょうか。今回は、この子らのWMの容量の拡充を図りつつ、日本語習得につなげていく方法を、絵日記という具体的な教材を使ってどう進めるか考えてみたいと思います。
WMを考慮して絵日記の中でことばを伸ばす方法は?

取り上げるテーマを決め、やったことを思い出そう!
上の記述は、聾学校乳幼児相談に通う、ある保護者の育児記録の一部です。田舎から送ってきたスイカを子どもに見せ、絵本も使いながら様々に語りかけ、また実際に体験させています。ただ、「スイカ送ってきたから食べよう」でなく、スイカの大きさ、重さ、かたちなどに注目させたり、絵の中の赤いスイカとも比べさせています。そして、包丁を持ってきて切るところを見せ、みずみずしくて赤いスイカの実に着目させ、一緒に味わい、視覚、聴覚、触覚、味覚など五感をフルに使ってスイカの概念を実感させています。
このような体験とやりとりをした子どもは、「スイカ」をテーマに絵日記を描く時に、沢山のイメージを引き出すことができます。そして、その体験を絵と文にするのが絵日記です(下図参照)。
さて、ワーキングメモリーが弱い幼児は、スイカの体験がうまく思い出せないかもしれません。そこで大人の援けが必要になります。「ピンポーンってなってなんだろうと思って出て行ったら大きな箱だったね」「そしてなんだろう?ってあけてみたら・・・。そう、スイカ!」「誰が送ってくれたんだっけ? そう、田舎のおじいちゃん・おばあちゃんだよね」「かたちはまん丸だったね。そして持ってみたら・・」等々。このように、体験をひとつひとつ思い出す作業は、WMを強化するためにも大切です。


どんな場面の絵と文をかくか、子どもと相談して決めよう!
体験を思い出し一通りやりとりしたら、絵を描きます。どんな場面を描くか子どもと話し合って決めます。添える単語や文も決めます。ただ、単語・文は、子どものWMから適切と思われる量の単語・文を選びます。このすいかの場面で言えば、「すいか」(3文字)だけにするか「すいかを たべた」(二語文)まで書くかを判断して書きます。WMの厳しい子どもは、2文字や3文字の単語を確実に覚えることが大切です。
絵と文をかき終わったら、もういちど、場面を振り返ろう!
全てかき終わったら、もう一度、場面を振り返ります。その時、①「いつ、どこ、だれ、なに、どうして」などの5W1Hをあらわす疑問詞や、②「はじめに、つぎに、それから、さいごに」などの時間的経過をあらわす接続詞のキーワードを入れてやりとりしましょう。ここまでにやることは、どの子も同じですが、WMが弱い子は、以下に「覚えるための活動」を付け加えます。
覚える単語や文を決め、カードに書こう!
WMに課題のある子は、絵日記に単語や文をかいても、忘れてしまう可能性が高いので、もうひとつ「覚える」活動を付け加えます。これをしないとことばが増えません。ことばは増えれば増えるほどさらに増えるという指数関数的な特徴をもっているので(これがことばをカテゴリーごとに整理して構造化することの意味です)、ぜひ、取り組みましょう。
「ことばカード」は、縦書き、横書きどちらでもかまいません。①単語だけなら一行、二語文か三語文なら2行に分けて書きましょう。そして、②最後にもう一度、子どもに指文字と声を出して読ませ、覚えさせます(リハーサル)。年長さんなら自分で書いて覚えることもありですが、年少・年中さんはまだ自分で書くことは難しいので、③別に「す」「い」「か」とか、「す」「い」「か」「を」「た」「べ」「た」といった一文字ずつの文字カードを作り、それを順番に並べさせるのもよいと思います。


覚えた単語・文を翌日、もう一度覚え直す。
前の日に覚えた単語・文は、時間が経つと忘れます。私たちの記憶は、半日経つと半分は失われます。WMの弱い子どもたちはなおさらです。ですので、忘れてしまった単語や文を④翌日、もう一度覚え直します。学校に行く前にやり、⑤学校に行ったら、ことばカードの文をノートに書きうつすとか、担任の先生の前で覚えた単語や文を言い、シールをもらって貼るなどの評価をしてもらいます。
WMを伸ばすその他の活動



そのほか、一文字のことばや二文字のことば、三文字のことばでかるたを作って遊ぶなどもことばを覚えるための活動になります。また、市販されていることばカードを使うのもよいと思います。例えば、銀鳥産業が出版している「文字あわせカード」は名詞の言葉を覚えるのに役立ちますし、「動作のえあわせカード」は動詞の言葉を覚えるのに役立ちます。また、くもん出版などが出している「反対ことばカード」は、形容詞を覚えるのに役立ちます。
