セルフアドボカシーってなに?

セルフアドボカシー・障害認識・難聴理解
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 最近、「セルフアドボカシー」ということばをよくきくようになりました。これは、障害ある人が、自分に必要なサポートを得るために、自分のことを周りに説明して理解を得るための活動のことで、日本語では「自己権利擁護」と訳されています。
 セルフアドボカシーは自分の力を発揮するために必要な行動であって、決してズルやわがままをするために行うわけではありません。ですから、どのようなサポートが、なぜ、必要なのかを周りの人にきちんと説明することが大事です。そこで今回は、このセルフアドボカシーについて考えてみたいと思います。まず、難聴当事者Aさんの講演から。

ある当事者の講演から

 Aさんは、幼児期は療育機関に通い、小学校からは全て普通学校(インテグレーション)。そして大学を卒業して企業の人事部に配属され、他の障害者の採用等にもかかわってきました。Aさんの講演テーマは「セルフアドボカシーについて」。以下、その話の中から。

自分の障害をどう説明するか?

 まず、自分の障害のことを周りに説明し、自分への支援をどのように引き出せばよいか?
これができる難聴者は意外と少ないそうです。自分の障害を客観的に分析し、できることと出来ないことを自身が把握し、説明できる力は必要なことです。しかし、それが出来る人は多くないというのです。確かに、私も、以前に企業の人事関係の方から、「自分の障害について自己開示し、客観的に伝えられる人は少ない」とうかがったことがあります。
 Aさんは、自分がこれまで、いろいろな人との関係で、どれだけ自分の障害のことを周りに説明してきたか、さまざまな状況、いろいろな相手とのかかわりを経験し、どのタイミングで伝えるのか、相手によって丁寧に説明するべきか、さらっと伝えるべきかの判断。そういったことを、自分で考えて培うことがポイントだと話されていました。

家庭でやったこと~コミュニケーションの練習

  Aさんは、家庭でも、ご両親が、きこえる人はどれぐらいきこえているのか説明したり、たまに、家族内で口話のみで話す時間を作り、その会話で、誰が主導権をとって話しているのか観察させる。すぐに通訳せずに、「なんの話しだったと思う?どこが聞き取れてどこが聞き取れなかった?」などと考えさせてから説明するなどの練習もしたそうです。社会では、聴者との会話は必須です。そのための練習は、家庭内でも練習しておくとよいとのことでした。 
 また、聴者に、話の内容をきき返す時に、「何?何?」というより「ここまではわかったけど、ここから先が聞き取れなかった。なんだった?」など、具体的に聞き返すようにすると相手も応えやすいと話されていました。
 確かに、最初から話の流れを説明するのは、相手の立場からするとうんざりすることもあるでしょう。めんどくさいと思う人は、「いや、たいしたことじゃないから」で終わってしまうことも。こういう時、尋ねた側には「きかない方がよかったかな・・」というモヤモヤした感じが残ります。ですから、難聴当事者の側からの尋ね方というのもあると思います。ただ、最初から話がわからず、話題に全くついていけないときもあるでしょう。とくに数人で会話しているとき、話題が盛り上がっていると、尋ねるきっかけを逃してしまいます。そんな時はどうすればよいでしょうか? そのようなときの訊きかたとして、こういう言い方をしてみてはどうかと思います。
 「ごめんね。話のきっかけを聞き逃したので最初から全然わからなかった。途中で尋ねるのも話の腰を折るような気がして、言えなかった。もしよかったらかいつまんで、話の中身を教えてくれる?
 こういう尋ね方なら、相手も納得して説明してくれる可能性は大きいでしょう。また、集団で会話するときの聴者の側の配慮のあり方も大切です。「この人(難聴者)わかっていないかも?」と思ったときは、「ねえねえ、今、~のことについて話していて、Bさん(聴者)がこう言って、Cさん(聴者)はこんなふうに言ったんだけど、あなたはどう思う?」などと積極的に話に誘い込むとよいかもしれません。
 集団での会話は、難聴者の最も苦手な場面です。そのための配慮の仕方として、①発言は一人一人順番にすること、決して同時に複数の人が話さない、②話す人は難聴者にわかるように手を挙げて確認してから話す、③話す人は難聴者のほうに顔を向けて、少しゆっくり目に口をはっきりあけて、そしてできるなら手話や指文字をつけて話すようにするとよいでしょうし、それをルールとして皆で確認しておくとよいと思います。そうした配慮をすることが、セルフアドボカシーへの「合理的配慮」です。

相手への「支援」や「配慮」の求め方

  また、Aさんは、地域の学校の担任の先生や、職場の上司や同僚、友達など、要望を初めに全部伝えるのではなく、その都度、小出しに伝えると通りやすいとも。聴覚障害という障害は外からはわかりにくい障害なので、だんだんと周りの人たちも慣れて、聴覚障害のことが少しずつわかってきたときに、それに合わせて出していくということでしょう。

幼児期につけておきたい力~セルフアドボカシーの前に

 まず、就学前に必要な力としては日本語の語彙と文法の力。そして想像する力。難聴児は、人の話の裏を読み、そこにあるメッセージを理解しにくいですが、その前にまずは、確実な日本語の力。そもそも日本語の使い方を間違っている状況では嫌味すら言ってもらえないとAさんは話されていました。そして、さらに婉曲表現や裏の意味を理解できる日本語の力をつけること。話しの裏にある真意を考え、裏のメッセージを理解できるようになること。そのためには、人間関係の経験をつむことが大事で、そのためにも友達と対等に話せる言語力が最低限必要ということでした。

 Aさんは、幼児期から言語訓練に熱心に通い、家庭内でも徹底的に母親の言語指導、発音指導があったそうです。絵日記、オノマトペ(擬音語・擬態語など)、しりとり。外出して移動中は、常に電車の中や車の中で言葉遊び。そのおかげで入学前には、だいたい年齢並みの日本語の語彙力・文法力は身についていたそうです。
 また、Aさんは、明るい性格ということもあり、友達にも恵まれ、ジョークやイントネーション、謙遜、空気の読み方などを友人とのつきあいの中から学んだそうです。「くそー」「ダサい」など、親や先生は教えない言葉を、聴者の友人から学んだそうです。
 セルフアドボカシー以前に、そもそもの前提として「言語的思考力」がなければ自分で考えることができない。言葉の力をつけることが土台となり、自ら考えたことを表現するので、日本語力は大前提、ということでした。

 Aさんは小学校・中学校の時は、通常学級だけの丸ごとインテグレーション。そのため、セルフアドボカシーの力は家庭でご両親によって指導されたようです。現在は、インテグレーションのあり方の中に、通級方式や難聴特別支援学級などもあります。このようなところでは、「自立活動」などの時間の中でセルフアドボカシーの指導を行っているところもあります。そこではどのような指導をしているのか、また別の機会に紹介したいと思います。

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